月刊OUTって、何だったのかな? 月刊OUTって、何だったのかな?

かつて「月刊OUT」というアニメ/サブカル誌がありました。
元読者3人からなる「月刊OUT勝手連」が、当時の編集部員やライターなど、雑誌にかかわった方たちへのインタビューを通して、18年にわたる雑誌の歴史を振り返ります。
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榎野彦さん( 12345
インタビュー:榎野彦(鷹見一幸)さん(その5)

公開日:2025年8月x日


業界の中に息づくOUT
OUTが何かをしでかしたんじゃなくて、たまたまOUTっていうものにそういうのが集まってただけだと思うよ

先ほど業界で「OUT的な」っていう話があったと思うんですけど、お仕事をされる中で、ご自身の仕事でも、それ以外でも、OUTの文化・影響が未だに見えるな、ということってありますか。

影響っていうか、昔は固まってたけど、今は拡散しちゃってるんだよね。でも根元にあるものはある。パロディっていう二次創作なんだよ。

エロパロでもなんでもいいんだけど、ウィットに富んだパロディを書く人がいる。これは非常にOUT的な考え方だと思うんだよ。あっちのものとこっちのものをただくっつけるだけで「面白いでしょ?」ってんじゃなくて、「くっつけたことによって、何が生まれるか」を考えてまでやるっていうのはね、ジョークで言うところのウィットなんだ。この感覚はすごく大事だと思うんだけど、それを活かすところはあんまりない。つまりそれは、言っちゃ悪いけどメインにならない。

しょせんOUTは昔から「弁当のおかず」だとか、「本屋で読む中華丼」とか言われたし、「牛丼屋の紅生姜みたいなもんだ」とか言ってたんだけど。

あったら面白い。
…なくても困らない(笑)

これは実はすごくいいことでね。軽いって意味じゃなくて、肩に力がない…力を入れないんじゃなくて、力がない、最初から。合気道じゃないけどさ。大上段に構えて「こうだ!メインのトレンドだ!」って力を入れるんじゃなくて、気を、力を抜いたことによる面白さっていうのは絶対あるんだ。

こういうウィットに富んだ、ちょっとした気の利いた返しだとか、そういうセンスは昔からあるけど、OUTってそれの塊だったんじゃないかなと思う時がある。

それは別にOUTに限らずどこにでもあるんだけど、それが純粋結晶みたいな形で固まっちゃったのがOUTなんだろうな。OUTがなくなったあと(その塊は)一律に散らばってったんだけど、確かにそういうものの面白さ・価値観、そういうものの見方っていうのは、残しててくれたんじゃないかな。

だからOUTを知らない人間でもたどり着けるし、知らずに自分で言ってるかもしれないけども、知ってる人間から見ると「うん、それだよね」って思うところがある。OUTが何かをしでかしたんじゃなくて、たまたまOUTっていうものにそういうものが集まってただけだと思うよ。

アイディアっていうのはね、「順列組合わせ[84]』だと俺は思ってるから。知ってるいろんなものを組み合わせていく、その時の組み合わせはもう無数にあるでしょ。そこでフィルターをかけて、面白くないものをバーっと落としてって、残ったものだけが面白いものとして出てくるって、俺はその選別能力のことをセンスって言うと思うんだ。投稿常連の人っていうのはそれが長けてるのね。

「お、ちょっと面白いな」って思いついたらすぐハガキを書くやつがいっぱいいるけど、それははっきり言って凡百なの。その中でちょっと面白いものを残して山を作ると、だいたい5合目6合目ぐらいまでは全部ダメで、最後に残った山の上の、さらに一番上に残るのが常連なの。

ただ常連ばっかり選び続けちゃうと良くないから、「ちょっとこれは…」と思うかもしれないけど、新人も入れてあげて、その成功体験っていうのは大きいからって(編集部から)言われてね。だから、最初にバーって絶対面白いってやつを選ぶわけよ。ちょっとイマイチかなってのはこっち側になってるわけ。で、その2つから選び出すんだ。

だから常連の人たちがそのセンスを何らかの形で生かす…漫画の絵を描く能力とか、面白い文章を書く能力とかあったとしたら、もしかしたらプロまでいける、セミプロになれてるぐらいのセンスがあったからね。OUTってのはすごかったよ。

だって、こっちにしてみればそれがすごい刺激だもん。「選ぶ側」と「選ばれる側」でどれだけ差があるだろうと思って。「あ、こういうのは思いつかない」とか、「これは面白いや」ってのが絶対あるんだもん。花小金井と2人してさ、「…偉そうなこと言ったけど、俺らこれ以下だよね」っていう話で、ほんとに。

そんなふうに、あの時OUTに関わってた連中・投稿者だった連中・読んでた連中が、今、クリエイターの方でかなりの…要職とまでいかなくても、権限が持てる世代にまで来てるわけだよ。

「OUTが出てきた時に、アニメの売り方を知らなかった」って話したけど、その後、出版やその連中の価値観の中に「OUT」が出てきたみたいに、これから先の創作とかいろんなところの意思決定の部分に、OUT的なものが出てくると思う、俺は。そうすると絶対面白くなるよ。もうちょっと長生きしようかなと思う(笑)。

30年経って、まさにこれからそういう……

世代ってのは、その世代でなけりゃできないことってあるんだ。だから別にOUTをもう一度作るんじゃないんだよ。軽妙洒脱、大上段に振りかぶらない、力を抜く。なおかつ気が利いて面白い…OUTのセンスっていうのは洗練されてたと思う。そのセンスを持った人間っていうのは、メインは張れないかもしれないけど、絶対どっかに関わってくると思うね。

今のラノベの若い作家なんて、みんなもう20歳代だから、OUTなんか知らねえよってのは多いけど、そういうのを世に出すかどうか決定する中に、OUTを知ってた人間もいるかもしれない。第一線じゃなくてもいいんだ。送り出す側に回った時に何ができるかっていうのは、問われてるような気もするけどね。

我々のこのサイトも、およばずながら、その一端を担うことができれば、と考えています。

時空のクロス・ロード:OUTの時代とはなんだったのか
今の作家としての立場があるとしたら、絶対あそこで変な文章を書いて出してたおかげだよね。

いやはや。とにかく、OUTの時代ってなんだったんだろうね、アレ。 21になる頃から5年間、人生で1番面白い時代をあの時あそこにいることができて、本当に俺は人生幸せだった。あれより若くてもダメだし、ある年齢になると、今度は送り出すのは編集の立場なんだよね。こっちはね、本当に無責任に面白かった。

ライターっていうのはさ、いちおう誌面を作る時に関わってくるかもしれないけど、編集者じゃないんだよね。編集さんってのは、責任を取るんだよ。それも大徳さんとか兄貴に言われたんだけどね。「編集ったら責任を取るんだぞ、お前無責任言っとるけど、その責任とんの俺だからな、よく考えろよ」って言われた。

でも面白いじゃん。ヘラヘラ笑って「でも面白いじゃん」って言い返せるだけの関係性はあった。それはすごくありがたい。むっちゃ無責任に面白いことができたっていうことに関しては、あんな経験は普通の人は絶対できないと思うから、本当に嬉しかったな。幸運、ラッキーだったと思う。あれ、兄貴がいなかったらおそらくないだろうし、作画グループみたいなところに入ってなくてもなかっただろうし。

今の作家としての立場があるとしたら、絶対あそこで変な文章を書いて出してたおかげだよね。読んで面白い文章っていうのを教わったわけじゃん。それまでも自分で好きな文章を書いてたけどさ、読者を想定して、頭ひねくり回して、読んで面白い、笑わせる文章を書こうって本気で思ったのは、あの時が初めてだからね。そこで鍛えられた部分は、多分にあるね。

多分に偏った読者ですが(笑)。

だから、この感覚で書いた文章っていうのが、特にラノベの編集さんとかには新鮮なのかもしれないね。

「毒のあるものが好きな読者に鍛えられた」みたいな。

そう。毒なんだけど、その毒の出し方だよね。ダイレクトに出さないからさ。ニヤっと笑うようなさ。あとでじんわり効いてるような。

それから、文章を短くするっていうのがあって…(雑誌を手にしながら)ここにキャプションつけるのね。会話文の面白さっていうのは、自分で漫画のネーム書くのとOUTでもって勉強できたんだけど、山あるなかから的確な情報を選別して、短く書くっていうのを教わったのは、さっきも出たけど、『Kamedas』だな、大徳さんから。

例えば「ジープ」[85]について、3行で書けって言われた時に、ものすごく情報があるわけだよ。ジープっていうのは、元々アメリカのバンタムって会社[86]が作ったのを…(※このあと膨大な情報が続くのですが、あまりに長くなってしまうので割愛します)。

これをね、『Kamedas』でやらされたわけよ。そうするとね、膨大な情報の中から読者に渡すべき情報を選別して、なおかつ読んで「ああそうなんだ、面白いな」と思わせるにはどうすればいいかって、もう脳みそパンクよ。これを300ページ担当したわけ。架空の両さんの発明だとか、変な不動産とか…木の上に家が建っててさ、コウモリのカッコで飛んで出勤するとか、ああいうのは楽だったな〜。この世にないものって、すごい楽だなと思ってね。

情報の取捨選択ってさ…作家として、綺麗な文章やなんだかんだっていうよりね、まずはそれだね。読者にどう伝えるかっていう。

例えば「机の上にバナナが置かれている」っていう文章があったとして、それに「バナナを置いた人間」の情報を渡したい時には、例えば、可愛い女の子のキャラクターがバナナを置いたとすると、
「そこの机の上にバナナがちょこんと置かれている」
ちょこんとって書くかな。その一言にもって、可愛らしさというのが、置いた人間の可愛らしさっていうのに繋がってると。書いてある文章が読者に提示している情報っていうのは、バナナが置かれてるってことだけなんだよね。そこに「ちょこんと」ってつけることで、置いた人間の情報をそこに乗せる。

ま、言えば簡単なんだけど、こういうことのためには、やっぱりOUTの仕事とKamedasの仕事は必要だったなと思う。こういうことを(実は意識してるんだろうけど)無意識に書けるようにならないと、作家はスピードが出ない。センスの話もしたけども、面白い情報の取捨選択、頭の中で無数の組み合わせのアイディアの中でこれ面白いなと思ったものだけ生き残るまでの主な選択っていうのは、意識しないでやってるんだよね。

投稿者のセンスっていうのはここにも出てくるの。それはそいつの能力・スキルだと思う。だから送られてくる投稿の中から1通か2通しか残らないっていうのは、やっぱりその能力なのよ。「常連ばっかり使いやがって」っていうけど、常連は面白いんだ(笑)。

いや、それはよくわかります。僕らはその中で投稿者として戦って、それなりに頑張った人たちだけどね。でも、「これ…負けるわ…」っていう。

未だに思い出すと笑っちゃうのが、堀井さんの『でたまか』の中で、だんだん話が色っぽくなっていく時に、
「わーい、お寿司の味がする」[87]
あれは「やられた」と思ったもんね。これで落とすかと。またそこへはめ込む堀井さんのセンス!

あの腕もすごいですね。

そういうものを相手にしてたから、うぬぼれる暇がなかった。怖かった。すっげえ怖かった。

だから、さっきも出たけど、花小金井と
「俺らと、この投稿してくる連中はどれだけ差があるだろう」
って。
「差なんてねえよ。こっちでも全てやってあんじゃん。」
「こういうのを書いてくる人間に、面白いと思わせなきゃなんねえんだから、地獄だよな」
そこで花小金井がニヤニヤ笑って
「口でそう言っときながら、負けたとは思ってないでしょ」
「それは当然」(笑)

花小金井も大変だったと思うけどね。花小金井和典の名前で、月刊OUT以外でも仕事してたし。やっぱり他の雑誌でもやれる人はいないのよ。当時、アニメージュとか、ジ・アニメとか、みんなライターはバイト。専属ライターはいなかった。本当にそういうのを書けるライターがいないから、各アニメ同好会とかそういうとこから使えそうなやつを引っ張り出してきて、そいつらにやらせるって感じかな。

だからそういう意味でも、アニメックなんかも好き放題できたんだろうね。(OUTが)メックとよく似てるのはそこなんだ。ただ、アニメックの方はこう言っちゃ何だけど、妙におしゃれなんだよ。あれは小牧さんの趣味だな。なんつったらいいか、ちょっと現実から浮き上がったところの方がよくて、あんまりドロドロしたものは見せたくないっていう感じの人だったな、小牧さんは。

ところが俺なんか、こういう感じでドロドロを平気な感じで書くわけだよ。泥臭いっちゃ泥臭いしさ。そういう距離感もあったね、メックとはね。メックの方がいいっていう人もいっぱいいたけどね。ファンロードがいいってのもいたしね。

OUTはやっぱりおかしいんだよね。おかしい。

そうですね。その成れの果てとして、いま私たちがいるわけですが。でも、まだいっぱい後ろに何十人もいますよ。

いるでしょ。

学校帰りの買い喰いで何を食べるかってのがあって。
アニメックのファンは?クレープじゃないかな、なんかそういうの食べる。
ファンロードのやつがたい焼きかなんかを食べる。
OUTは?「駄菓子屋にたむろする」

(笑って)その通りだ。

確かに、本当にそう。

駄菓子屋で何か買うんじゃなくて、たむろする。言い得て妙だなと思ったけどね。誰が言ったんだったかな…「駄菓子屋にたむろして、ブタメン啜る」だ。

いちばん安い奴じゃないですか。

ひでえな(笑)。

(了)


榎野彦さんに直筆で色紙を書いていただきました!

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榎野彦さん( 12345

[84] 順列組合わせ :

[85] ジープ : ジープ 不滅の戦闘車輛 参考リンク

[86] アメリカン・バンタム社 :

[87] 「わーい、お寿司の味がする」 : 86年4月号「ゆう坊のでたとこまかせ」「ときめきの放課後パート2の巻」。読者が投稿した短い文章を繋げて小説にしてしまおうという企画。サッカー部の中学生・翔大が女性に目覚めていく過程を描く。


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