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ドライコ・シリーズ - 時系列の矛盾

 このページでは、タイトルの通り、シリーズの時系列上の矛盾点を検証するべく したが、各長篇の正しい年号については作者自身による結論が発見できたため、ここで長々と については削除



潮吹き上げる時代


 ドライコ世界の始まりとなった「潮吹き上げる時代」については、主に「Ambient」、「ヒーザーン」、「Random Acts ...」の三長編の中で詳しく語られている。特に、「Ambient」では事態の中心にいた人物による回想という形で、また、その最後の年である「ゴブリンの年」を舞台にした日記形式の「Random Acts ...」では、日付つきで当時の状況の一部が記述されている。
 それらの共通部分をつなぎ合わせると、以下のようになる。1996年の部分の日付はすべて「Random Acts ...」に書かれているものである。



1990年代なかば(?) ロング・アイランドで原発事故が発生
(以後、原発事故を最後の審判の予兆と考えたキリスト教徒が次第に勢力を増す)
 後に「アンビエント」と自称することになる子供たちの誕生
1998年 ロング・アイランドを中心に市民の暴動が激化
全土で同様の暴動が多発する
3月24日大統領の暗殺
4月18日次の大統領、ロング・アイランドの紛争を公式に認め、「オペレーション・ドメスティック・ストーム」を宣言
州軍(National Guard)が内軍(Home Army)に再編成される
5月2日次の大統領、飛行機事故で死亡
5月3日「チャーリイ」の大統領就任
(不明)「神の国法案(通称)」の制定による政治の極端な親キリスト教化
(各地で銀行の襲撃やさらに激しい暴動)
(不明)Q資料の公表によるキリスト教権威の失墜
5月19日突然の平価引き上げ(黒い火曜日)とそれに乗じたドライデン夫婦による資産の買い占め
同日チャーリイは逃亡を試み失敗、群衆のリンチを受けて死亡
1997年以降 ドライコによる「財政建て直し」


 発端となるのは、ロングアイランドで起きた原発事故である。これがひとつの引き金となって、国内でキリスト教勢力が次第に力を増してゆく。また、政府の事故への対応の杜撰さが数年後の暴動の火種ともなる。それと平行して、アメリカの経済は次第に悪化し、温暖化効果による気温の上昇も顕著になる。
 1998年、キリスト教系の有権者たちの声をすくい上げる形で大統領に登りつめた「間抜け爺さん」ことチャーリイが、その公約を実行する意味で通過させた、「神の国法案(God's Coutry acts)」と通称される一連の新法は、キリスト教的な意味での正常化を社会にもたらすべく、選挙権はキリスト教徒にしか与えない、離婚や再婚を禁止するなどといった、極端に親キリスト教的な内容のものだった。キリスト者と非キリスト者との間に激しい争いが起こり、アメリカは文革時代の中国のような大混乱に陥る(エイヴィの婚約者もこの時期に起こった銀行の襲撃に巻き込まれて死んでいる)。それからほどなくして今度はキリスト教の根拠を失わせる「Q資料」の存在が公にされ、国全体が一種のショック状態に陥っているところへ「平価引き上げ」、すなわち旧通貨での100ドルが新通貨での1ドルになる、極端な通貨の改定が前触れもなしに施行され、「黒い火曜日」と呼ばれる市場崩壊を引き起こす。サッチャーはこれを事前に報されており、混乱に乗じて事実上国そのものを買い占めることに成功する。資産は凍結され、人々は墓を暴くほどの困窮に直面し、莫大な死者が出る。この暗黒の一年は後に「ゴブリンの年」と呼ばれることになる。
 かくして「潮吹き上げる時代」は終わり、アメリカは実質上ドライコの所有物となった。


 さて、問題のひとつは「間抜け爺さん」ことチャーリイ大統領の任期である。「Random Acts ...」では彼の天下はわずか2週間余りだが、「Ambient」ではその任期の間に「神の国法案」の施行と「Q資料」の公開があったとされ、なおかつその二つの出来事の間に1年が経過していると書かれている。「Random Acts ...」ではこの二つが正確にいつなのかは書かれず、混乱する街の風景の描写でわずかにそれが伺えるのみ。これがまず大きな食い違いである。

 ロング・アイランドの事故については、はっきりした年は不明だが、その後に生まれた子供たちが「ヒーザーン」ではすくなくとも小学校に入学するくらいの年齢(ハヤカワ文庫版10ページのジョアナの発言)にはなっているようなので、1990年前後と考えるのが妥当なように思われる。しかし、「Random Acts ...」では主人公の一家が前年までは毎年ロング・アイランドに出かけていたのが今年は事故のためにいけなくなった、という風に読めるやりとりがあり、これもやや腑に落ちない。



年齢詐称疑惑

 「Random Acts ...」および「ヒーザーン」から「Ambient」までの経過年は、12年とされている。ところが、「Ambient」と「Random Acts ...」の二作にまたがって登場する一人の人物の年令が、これと大きく食い違うのである。この人物の年齢を基準に考えると、「ヒーザーン」と「Ambient」との時間的隔たりは6年ということになる。たったの6年で起こったにしては社会の変化が大きすぎるようにも思えるし、そもそも戦争についての記述とまったく噛み合わない。当該人物が「Ambient」で年令を偽っている証拠がないかと探してみたが、そういう記述は今のところ発見できていない(この人物の位置づけを考えると、そうする理由はあるような気もするのだが)。