場末の回転寿司屋のネタは 夜店の駄菓子の 色をしている。 目の前を通り過ぎるサケの切り身が酢飯の上で 「ぴたん」と跳ねるのを視界の隅に捉えてしまったので 脳裏にはどこか店の奥の薄暗い倉庫のなかで 「ぴったん」「ぴったん」と無表情に跳ね続ける ゾンビ魚の無数の切り身の映像が鮮やかに映し出されて ついデザートのプリンばかり立て続けに3個も食ってしまう。 「うちのは活きがいいっスよ!」 そう言う板前の眼は死んでいる。 くりぬいたマグロの目玉をはめ込んであるだけなので よく光るが見えているのかどうかは判らない。 以前この店にはコンベアにおもちゃの寿司をまぎれこませて うっかり客がそれを取ってしまうと 5時間笑い続ける板前がいたが入院したらしい。 意を決してふたたびサケの皿に手を伸ばすと 奴はまたしても「ぴたん」と跳ねて不快の意を表明するので かまわず噛みくだしてやると、なぜか板前が悲鳴をあげている。 そして奇妙なダンスを披露してくれた。 眼にやきついてしまう前に店を出る。 「おまえはまたここに来るだろう」とネオンが瞬く。 二度と来るまいと心に誓う。