*随所にネタバレがありますのでご注意ください。
ようやっと決定!2001年度私的ベスト10!
<洋画>
次点 ポワゾン
<邦画>
次点 修羅雪姫
主演男優賞…真田広之「真夜中まで」
ショーン・ペン「ギター弾きの恋」
主演女優賞…片岡礼子「ハッシュ!」
ビョーク「ダンサー・イン・ザ・ダーク」
助演男優賞…光石研「EUREKA」「ハッシュ!」「まぶだち」
助演女優賞…裕木奈江「光の雨」
監督賞…佐藤信介「LOVE SONG」「修羅雪姫」
ラース・フォン・トリアー「ダンサー・イン・ザ・ダーク」
恐るべき邦高洋低。洋画は去年なら一本も入らないです。対して邦画はもっと選べる。やっぱ三池崇史の暴れっぷりが目に付く今日この頃ですかね。今年に入ってからさらに凄く石井輝男を超える勢い、非常にいい傾向です。最後に「リリィ・シュシュのすべて」「ターン」「メメント」「ブロウ」他多数を観てないことと、ほんとは「A.I.」が大好きであることを告白して終わらせていただきます。
世間で言われる「幻の傑作」というのはとてもうさん臭く、そんなに傑作なら幻になんないだろと疑ってまず間違いない。
映画というものは需要があればどこかしらで観られるものであり、プロレスにおける、前田日明−ドン・中矢・ニールセン戦みたいな幻の一戦とは質が違うのだ。論理的に考えれば当然とも言える理屈だが、そうと知りつつ観に行ってしまうのがメディア・ジャンキーの悲しさと言えよう。
そこで今回のピーター・フォンダ監督作品「さすらいのカウボーイ」ですけど、そんなの知らねー。
'71年作品か…さては、アメリカン・ニューシネマだな! いたずらに反骨心むき出しで、野郎〜! 西部劇のセオリーを無意味に壊すだけが取り柄の異色作! この、なり損なったサム・ペキンパーめが! と、罵倒しつついそいそと出掛けてしまう僕。何を言ってんだ! ニューシネマを馬鹿にするんじゃない! 聖なる「俺たちに明日はない」に対する冒涜だぞ! て、ぼく分裂症気味ですか? でも正直、邦洋問わずこの時代の得意げに理屈走った問題作というのはほんとにタチ悪く、心にゆるーくブレーキを掛けておく必要があるのです。レイトショーだしね、一般向けじゃないんだよね、みたいな。
で、観ちゃいましたよ昨日。 どうだったか?
すすごーい! 美しいとしか言いようがない。ストーリーは別にいい。もう、画面が美しい、分かりやすい! そして悲しい! 美しさと悲しさと、それが完全に溶け合ってて、挫折感! 悲壮感! 無常観! これはまさに、いい意味であの時代って感じ。これなんで幻なの? 確かに幻のように美しいけど。ふーん、不発だったって。'72年のオスカーって何が獲ったんだ? えーと、あー…「フレンチ・コネクション」かー…。あれは、斬新さの映画だからねえ。「スター・ウォーズ」と同じ。普遍性が格段に違うよ。普遍的な品格が。つうか、観ろ。
※昨年のベストテン、「ハッシュ!」はどっちかとゆうと今年の映画でしたね。失敗。
「アマデウス」観たから「ムーラン・ルージュ」も観ようかなあって、今日も快調に単純な僕の脳細胞。
ムーラン・ルージュって昔あった劇場ね。てことは「天井桟敷の人々」風楽屋愛憎ドラマであろう。そう思って観たところ、意外でもないけどミュージカルだったですよ。でもミュージカルってのは当たり外れが大きい。受け手が日本人であれば尚更のことで、そもそもオペラの伝統が無いからしっくりこないのも仕方無いんですけどね。ただ、白人連中も実はミュージカルに結構違和感持ってるのでは?だからこそ「シェルブールの雨傘」(台詞が全部歌)とか「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(妄想内ミュージカル)みたいな反・ミュージカルが生まれるんじゃないんでしょうか。恥ずかしさ対策の産物やね。
で、そんなこんなを「ムーラン・ルージュ」は何をもって乗り越えたか? 答えは現代風アレンジ。危険な賭けだが。今風の時代劇が寒いって、それくらい映画好きでなくても薄々分かるでしょ、別に「利家とまつ」とか言わなくても。三谷幸喜の新撰組(再来年)も怖い。だから、そんなの無謀と叫びたいですが、今回に関して言えば見事なことになってました。
まず、思い切って現代寄りに徹したのが非常に良かった。オリジナル曲ではなく、西暦1900年の人間がビートルズやエリック・クラプトン、セリーヌ・ディオンやマドンナのヒット・ナンバーで愛を語るってゆう、その違和感が面白い。劇中劇の内容も全くのロック・ミュージカルで時代考証無視甚だしく、邦題も原題と同じく「!」をつけるべきと妄想内大主張してしまいました。しかしこれ、宣伝困っただろうなあー。嘘ついて「覇王別姫」的感動を売りにした方がヒットしたかもしれんのに、この誠実め。勘違いでも観せちゃえば、嬉しい裏切りと化す代物だと思いますよ。感動もあるけど、笑いやお色気、切なさもあって、ハリウッド的に贅沢な映画だが金儲けの匂いがしないと言うか、必然性があって作られたとゆう感じ。無茶苦茶なりに「雑多」というのが意図的なコンセプトだってのも理解できるし。インドのマサラムービーの影響かもね、余談ですけど。
そんな中、MVPは当然、二コール・キッドマン。感動、笑い、お色気みーんな彼女の肩にかかっているじゃあないですか(切なさ担当はユアン・マクレガー)。こんなに才能あふれ、なおかつぶっ壊れた二コールはいまだかつて見たことなく、やっぱしトムがペネロペとナニしたからですか? と邪推しつつも、映画は彼女の魅力に引きずられるがごとく恋愛ドラマの王道へとなだれ込んでいくのであった! もう大満足。ニコールだけでなく、出演者が皆、作品のトーンに酔ってるのも良かったですね。ミュージカルって、こんなだろ? みたいな大仰な身振りを敢えてしてみせるってゆうのは、これも一種の恥ずかしさ対策とはいえ。観ないで逝くには、惜しすぎる。
追伸 観るの遅くて、すみません。
お久しぶりでお恥ずかしい。いろいろあったんだよ!
さて今日の一本。'01年「回路」に引き続き、黒沢清監督「アカルイミライ」最高。
このひとの映画、「カリスマ」がつまらなかった事もあって、ホラー、サスペンス以外は全然観てなかったんですけどね。彼、映画界を代表する論客でしょ? 頭が勝ってるひとって苦手なので(青山真治よりましだが)。
しかし今回は、まあ殺人とかもやっぱし出て、相当ひねりは効いてるとはいえ、ちゃんと真っ当に心に沁みる人間ドラマだったと思います。いつもの役所広司は出てなかったけど、キャスティング良かったし。マイナー映画界の皇太子・浅野忠信に始まり、山崎努の次にかっこいい・藤達也(ぼくセンス)、メジャー界から特別ゲスト・オダギリジョーなど、ほらすごいバランス感覚。
スタイルを無意味に気にしてた頃に比べ、ちょっといい感じに抜けてきたんじゃないでしょうか。クラゲのシーンなんか見ると、結局他の作品と世界が繋がってるんだなあとか思わせられますが、そこはご愛嬌とゆうかスパイスとゆうか、せめてもの抵抗とゆうか。
つまり! 黒沢清はメジャー的な制約を与えると、苦悶の末いい仕事をするのです。枠からはみ出る瞬間、とてつもなく輝くその姿、創作者の鏡です。彼はもう大丈夫。
いつも、遅い映画ばっかしですいません。今日も遅いよ。さあて。
宮崎あおいって、地味に勢いあるよね。大作「EUREKA」以来、さまざまな思春期を演じてきた彼女ですけど、特徴的なのは、いつも巨大なトラウマを抱えているという事でしょう。堀ちえみに似ているというか、はっきり言って負け犬の顔だから。明るい「パコダテ人」っていうのも観たが、あれは今いちチャチだった。しっぽが生えて、人気者になったり、機動隊に囲まれたりする女の子…別にいいけど、軽薄な話を軽薄に撮っちゃって、浅い事限り無かったし。やはり、若くして、影が似合う娘なんです。
そんな彼女、今回主演のタイトルは「害虫」。そそんな無茶な、商売っ気の無い題名。影にも程がある。絶っっ!対いじめられっ子の話だと思うよな。「やーい害虫」とか言われて。そんなしみったれたの、僕だって観ませんよ「パコダテ人」と二本立てじゃなかったら(白状)。だから正直、意思に反して観にいったんですけど、これは良かった。
いや、結構過酷な話だった事は確かですよ。何たって、母親が自殺未遂で、しかも、演ってんのが、りょうですから。泣いたり笑ったり、あの人、今にも首吊りそう。その彼氏の天宮良が、まあ、一言で言えば鬼畜でして、なおかつ、宮崎あおいの主人公も小学校時代、担任と良からぬ噂があったりともう散々。こりゃあ後はいじめられるしかないという状況ですが、彼女はありがちな学園生活には目もくれず、何やら後ろ暗い兄ちゃんとつるんで乞食と遊んだり、当り屋業に精を出すなど、積極的に健全な道を逸れまくってました。
だからと言って、それで主人公が解放される訳でもなく、そこには微塵の救いも無い。しかしながら、それが全然悲惨にはならず、というよりも、彼女が幼くもこんな深い、美しく絶望しきった表情をできる事に驚くばかりの僕でした。
唐突ながら、そこで思い出したのが、一昨年カンヌで大賞だったニヒル少女映画「ロゼッタ」。あれはどう弁解しようと、美少女が鼻水を垂らしたり、パンツ丸出しで喧嘩したりする所を撮りたい欲望に満ち満ちて、それはそれで全然悪くないんですけども、「害虫」のこの透徹には絶対負ける。世界に通用しますよ。問題はやっぱり題名。皆様が先入観に屈しないことを祈る。
遅れまして、2002年度私的映画ベスト10!
<洋画>
次点:この素晴らしき世界
<邦画>
次点:龍馬の妻とその夫と愛人
まあ納得してますけど、邦・洋ともに10本選ぶほどでもなかったような。またしても、結構観てないし。それは、「スコーピオン」「鬼が来た!」「UNLOVED」「SABU」「ゴスフォード・パーク」「ズーランダー」「突入せよ!」「ごめん」などなど多々。すいません。それはそうと、「ビューティフル・マインド」って、何がオスカーなんでしょうか。平均点を下回ってると思うんですけど。誰か教えてくだちい。
主演男優賞…ビリー・ボブ・ソーントン「チョコレート」「バーバー」
主演女優賞…大塚寧々「笑う蛙」
助演男優賞…キム・ガプス「KT」
ジェラール・ドパルデュー「メルシイ!人生」
助演女優賞…りょう「害虫」
あとはどうでもいいや。
あ、ついでに、
最優秀TVドラマ賞…「マイリトルシェフ」(ダントツ)
ヤクザ物大好き!
出来のいいヤクザ映画は精神衛生上大変よろしい。何故か?映画とは光と陰、そして動きの芸術だから。 具体的に言えばアクション物であり、人生の表と裏、生と死、純情と悪徳が詰まっている。クソも多いが、人は、いや僕は、プロレスの試合に隠し切れない真の実力を見極めるが如く(村松友視か)ヤクザ映画の中に宝を探しているんである。日本におけるアクションの系譜ってのは、ヤクザとチャンバラの歴史だし。
ところで! 質的には、まさに今こそが、第三次ヤクザ映画黄金期と言えると思うんですがどうでしょう。「ソナチネ」? 「シャブ極道」? あたりから始まり、「鬼火」「チンピラ」「DEAD OR ALIVE」など百花繚乱。好調の日本映画を底辺から支えている、それが平成ヤクザ軍団。要するにVシネなんですが、正直言えば、あとひとつ決定打が欲しいところ。出来栄えとしては「鬼火」が代表選手でもいいが、いかんせん作りが小さい。「仁義なき戦い」や「ゴッドファーザー」とタメを張れる大作、出て来い! と思ってたら、三池崇史が満を持してすごいの作ったよ「許されざる者」。
とは言え、予算的には多分並のVシネレベル。銃撃シーンは廃屋。待ちなさい。お約束でもいいんです。あらゆる制約を経験済み、真の叩き上げである三池監督が、安さを渋さに転化させる術をちゃんと知ってるんだから。一方で、キャスティングは非常に贅沢。主役は加藤雅也・藤竜也・北村一輝・石橋蓮司ら。悪くないでしょ? 神山繁・近藤正臣らの敵役はやや軽いが、善悪の両トップに津川雅彦・長門裕之の兄弟を配するなんて、ああ、その中途半端なこだわり、分かり過ぎるほど分かる。
以上の演技陣のうち、最高にかっこいいのは当然、藤竜也。加藤雅也と歳の離れた腹違いの兄貴が、父親を殺して逃げて、たどり着いたのは殺し屋稼業。人生の無情を知り過ぎた男。役者冥利!殺しの手際も余りに素敵だが、彼を置いても褒め称えておきたいのが、本筋になかなか絡まない脇の人々、例えば平田満。実直なサラリーマン役じゃないですよ。彼が演じるのは、頭も無精髭も真っ白で汚いコートを身にまとい、ボウガン片手に片足引きずり引きずり、なおかつ動きは猿の如き一流のヒットマンって、おいほんとかよ!と言いたくもなるが、これぞまさに三池流。「荒ぶる魂たち」以後、こういった持ち前のケレンを抑えてリアルヤクザ路線を模索してきた彼ですけど、ここに来て遂に絶妙な筋のずらし方を会得した模様。ボサノバをBGMにするアイデアや、照明を完全無視して実現した、夜の異様な暗さもあいまって、奇作「カタクリ家の幸福」が嘘の様に、重厚でありながら艶のある一筋縄ではいかないスタイルが具現化されてました。
ストーリー的にも僕の希望通り、政界まで絡めた抗争劇、群像劇になっていて大作感汪溢。ということは往年の深作欣二監督「県警対組織暴力」に似てなくもないんだが、そっちがメインじゃなくてあくまでもB級アクションの枠を守っているところを、殊更に評価してみたい僕なんでした。どっちかと言えば北野武「その男、凶暴につき」に似てるかも。
と、ここで、この傑作を象徴する、取っておきの配役を紹介しよう。それは、汚職刑事役の松方弘樹である。あんたって人はもう、素晴らしく卑屈で悪辣。どうやら芸能界ランクが下がったらしい彼、実は現在、脇役街道を爆進しつつ、演技者としてのピークを密かに迎えているのだった。「探偵濱マイク」で演じた、一人だけシリアスな殺し屋の存在感といい、人生、何が幸いするか分からないな。
全く、これだから邦画巡りはやめられない。皆様も、たまにはいいかもよ。こんなすごい映画でも、ビデオ化の暁には(1)(2)巻別売(長いから)で、狼たちの何とかみたいな変な副題が付くに決まってんだけど、いいじゃないか。せっかく勧めてんだから観てくれよ。
せっかくリアルタイムでお届け出来そうだったのに、携帯無くして結局、遅れてしまいました。Vシネなんて、2週間しかやんないんだもの。
山崎努ストラップにつられて「渋茶」買ったけど、努くん全然渋くない。あの怪しさ、余すところ無く表現してくれよ。
さて、皆さんテレビ観てますか? 面白いのありますか?正直あんまし無いですね。だって、みんな同じようなんですもん。
「虎ノ門」は欠かせないですけど、あれも実は、特別斬新じゃないんだよな。まあ、紳介か爆笑問題の番組であれば、面白い事は面白いが、ただ面白いだけ。ドラマも「マイリトルシェフ」以降、震える傑作は現れないし。秀作「ブラックジャックによろしく」の「何も考えるな」から「止まるな、止まるな、僕の思考!」へと気持ちが変化する、見事過ぎるモンタージュにしても、きっと原作まんまに違いないもんな。今クールには、何も事件がない!とお嘆きの諸兄も多かろうと存じます。でも事件ならありますよ。現今のTV界、最大の衝撃は「昭和のいるこいる、深夜番組のメインに抜擢」これしかないでしょう。
のいるこいると言えば「ああそりゃそうだそりゃそうだ」と、過剰なうなずきで遅咲きの小っちゃい花を開かせた大ベテラン漫才師だが、ある種の人間達は、彼等のこの状況に物凄い感慨を抱くのだった。芸人好きにとって、長らく「のいるこいる」とは「ビートたけし史」のほんの数行に過ぎなかったのである。
NHK漫才コンクールにおいて、本当は一番面白かったビートたけし・きよしのツービートを差し置き、同情票で優勝を勝ち取ったロートル漫才師。「世間なんてそんなもんです。のいるこいるなんて、今じゃ誰も知りません」と毒づくのが従来のビートたけし中心史観だったのに、たけしが、芸人として緩やかな下り坂を確実に行きつつあるこの期に及んで、まさか、まさかの急展開。生きてたのって感じですよ。たけしだって、30過ぎでやっと何とかなったっていうのに、この芸界の奥深さ。綾小路きみまろといい、上には上がいるもんだ。知ってるか? きみまろって、たけしら浅草芸人に多大な影響を及ぼしたんだぜ。人生ってすごいよな。
ちなみに、のいるこいる出演のTBS「正三郎の部屋」、内容は別に面白くない。ただし観ておく価値だけは抜群にあるので、我こそは物好きと名乗りを上げたけりゃ、観るがいいと思います。あとあんまし関係ないけど、同じくTBS深夜の「夜の体育」に出てくる水野裕子って、かっこいいですよね。一回ぶん殴られたいです。
やっと観ました。
「ラスト・サムライ」は面白い!
とまず結論付けて楽になったところで、それでは検証に入りましょうか。中途半端な評論が肯定・否定を問わず沢山あるからです。よって、時代劇はぼくの領地なので、あらゆる側面を勘定に入れて語ってみようかと、そんな感じに思い立ちました。
この映画に対するかっこつけ方として「渡辺謙以外は駄目」というのがあります。確かに渡辺謙の良さに異論を唱える人はそんなにおられないと思われるんですけど、実は彼が演じる反乱軍の頭目・勝元盛次の魅力を徹底的に掘り下げると、作品全体の良さもまた、見えてくるのでございます。個人的には勝元の人物設定に関して、歴史野郎が「誰だよ!」「そんな事件ねえよ!」とケチのひとつも付けたくなるのも非常に分かります。ってそれは、観る前の僕ですが、独断ながら、勝元の人物像は、このようなモチーフに細分化できるんです。
西郷隆盛(西南の役)…30%
大田黒伴雄(神風連の乱)…10%
江藤新平(佐賀の乱)…10%
渡辺謙(ラスト・サムライ)…30%
かくのごとく、勝手に振り分けてみるとあら不思議、刀、槍で西洋式軍隊に立ち向かう鎧武者が「だって神風連の乱だもーん」と、みるみるうちに許せるじゃありませんか。確かに時代考証を挙げつらえば切りが無い。しかし特筆すべきは「そんなの歴史上どこにも無いよ」と言いたくなる描写はほとんど見受けられないって事です。あえて言えば、椰子の樹林くらい。でしょ? 世間でよく言われるタイガーの旗だって、あんなのオーソドックスじゃないだけで全然大丈夫。ムカデとか、ひょうたんとか実際にあったし、「風林火山」だってフィクションだったら爆笑に決まってる。このように、現代の観客が物差しを持たないために何と、偶然にも「ラスト・サムライ」という題名の放つ意味が深長になったりするのでした。けなしたり、絶賛したりすりゃいいってもんじゃないのだ。ひとつひとつを冷静に見ていくと、反乱軍の拠点が九州でも萩でもなく、大和国・吉野である事にも唐突さを感じることは無くなります。なぜならば遠く南北朝時代、北朝(京都)に反抗すべく、南朝方の貴族・武将が根拠としたのがここ、吉野だから。
これで地理的に無理がないと確定し、「ロード・オブ・ザ・リング」扱いは気の毒とも決定いたしました。さて、ここまでくれば勘付く方もおられるでしょうが、いやいないか。
楠木正成(南朝方)…20%
これで勝元の謎が完璧に氷解します。正成部分を理解すれば、西郷らしかぬ奇襲戦法にも納得し、きらびやかな陣羽織が素敵にしか見えなくなるでしょう。南北朝期と明治時代、こんな共存が無意識に、あるいは無知によって成立するもんでしょうか? いや、あれはわざとです。トム・クルーズ演ずるオールグレン大尉だって、アーネスト・サトウ+リゼンドルだし、真田広之演ずる桐野利秋風人物、それから、黒澤映画つうか「影武者」の空気ね。ほんとに良く知ってる。
その、良く知ってるエドワード・ズウィック監督が、俺が日本だ! とでも言いたげに、彼の中の日本を縦横無尽に組み立てたのが「ラスト・サムライ」ですよ。この心意気をどうして批判出来ようか。そう、そうだ! これは、とても質のいい布切れを使ったパッチワークなんです。受け手に客観性と素養が無ければ、それぞれのパーツには「キル・ビルvol.1」と違って誠実さしか込められてないって事すら看過されかねないですが。やり過ぎだなと感じたのは忍者軍団の大活躍と断髪令だけで、膝十字固めにクスクス笑っちゃ駄目。おかしくないし、間違ってない。武士道が正確に説明されてるとは思わないにしても、むしろ絵空事だからこそ、結果としてここまで理想像としての日本を造形した手腕は認めざるを得ないです。
しかしまあ、美しい日本を見せたいなら、絶っ!対にキスしちゃいけなかったなあーとは思います。でも、キスだけってのがアングロサクソン的ストイシズムってやつかもね。それと観る前は、ペリー寄越した癖に明治維新否定するんじゃねえよとも思ってたですけど、ちょっと濡れ衣だったかも。ハリウッド監督の限界は遥かに越えている。どっちにしろ、見事な映画ですよ。
80点。面白さもテーマ性も考慮して、どちらかに開き直ること無く採点すると、それくらいの点数は出るんじゃないでしょうか。
たまには田舎帰らないとなあ〜。
御無沙汰2003!映画ベスト10!
〈洋画〉
次点・おばあちゃんの家
〈邦画〉
次点・座頭市
やた―――!
誰の話題にも上らぬ、真に埋もれた快作発見! それもこれも心揺さぶる映画が見つからず、渋谷の街をあてどもなく彷徨う僕の心の空白がこの出会いを生んだわけだが。ああこの渇き。虚無が虚無を呼び、あらかじめデジタル・ヴィデオ撮影と分かっている低予算映画「スペースポリス」に触手を伸ばした月曜の昼下がり。その上映館、場内にソファーが割と無造作に置いてあるでおなじみの渋谷シネ・ラ・セットが僕を惹きつけた最大の要因は何か? それは「出演・目黒祐樹(スペースポリス)」の表記につきる。
大・ベテラン俳優がそんなインディーズにって、それは観ておくしかないでしょう? ねえ。心意気は大事です。コメディには違いない様子もうかがえたし…いや待て気を付けろ! これはいわゆる(お)バカ映画だ。普通に撮った方が面白かったのでは? と言える最近の映画に「オーバードライブ」が挙げられる。とにかくこのところ「ケイゾク」や「木更津キャッツアイ」の悪影響が蔓延しているので、表層の目新しさに惑わされぬよう、心静かに挑まねばならぬ。
と、ノイローゼを募らせる僕だったが、
やた――――!!!
さてストーリー。だめな青年がへんなおやじに出会い、正義を行う。
詳細。おやじは宇宙からやってきたスペースポリス軍曹を名乗って青年を勝手に部下扱いし、ゴミ箱あさりなどのリサイクル活動に汗水垂らす。敵は絶大な人気を誇るハンバーガー店「アンドロメダ・バーガー」。東京・高円寺で失踪者が多発しているのは、やつらの陰謀なのだ!
この、うそかほんとか分からない、とゆう話自体はまっ!たく珍しくないですね。「陰謀のセオリー」「フィッシャー・キング」最近では「ビッグ・フィッシュ」など。しかも今回は、謎というほど深くもない展開なので、勝負は尚更、そこから始まるわけですよ。そこでちょっと矛盾しますと、結局、ディテールに救われてるんです。「アンドロメダ・バーガー」の店長が板尾創路。彼がいなかったらどうなっていたのだろうか。板尾おもしろーい! どこが? って、何となくー! 真面目にやってても、いるだけで面白いという、最近には珍しい役者になりつつありますね。とりわけ、板尾店長出演のコマーシャルフイルムが「♪イェイイェイイェイイェイ、ワーイワイワーイ♪アンドロメダ、バー!ガー!」と再三流されるたびに僕の心は浮かれ、踊るのであった。馬鹿馬鹿しいの意味を、よく分かっていらっしゃる。ただし、本当はこういった類の映画にこそ金をかけるべきで、下らないのはお話だけ、とゆうのが理想。つまりDVの不利は半端ではないんだが、ものすごくコントラストの効いた映像、多分フィルターで着色されたレンズ、あえて露骨なCGで表現するカーチェイスなどで、辛うじて安っぽさを回避しております。まさに回避としか言えない水準ながら、最低レベルの環境で映像にまで気を配るのは至難の業なのだ。
そして、板尾の存在感と共に、ストーリーの部分で僕を感銘させたのは、軍曹にこき使われつつも、青年が彼を放っておけない変な友達としか思ってないところ。この繊細な人間関係! なんにも笑うところじゃないよなあ。下らない映画を作りたい。ならば、何が下らなく、何が下らなくないのか? 作者がそんな考察をしているとは、実は全然思いませんけど、人間性に対するひとつの姿勢を持っていなければ、じゃあ、この辺で面白いギャグを。みたいな感覚でしかものを作れまい。そんなのはバカ映画じゃない。見よ! 目黒祐樹の渾身の演技を。ネイティヴ・アメリカン風の男を怪演するその雄々しい姿には、もはや「松方弘樹によく似た人(弟だから)」の翳りは微塵もない。映画に魂を吹き込むべく、また、偉大なる父・近衛十四郎の魂を汚さぬべく、間違いない演技を追求する目黒の姿こそが、素晴らしく馬鹿馬鹿しいわけですよ。そこへ徹底的に地の魅力で勝負する板尾が登場すれば、両者の断絶はいかんともし難く、結果、贅沢と言う他ないバカ映画が出来上がると。メジャー作品なら原田芳雄が演ったに違いない軍曹だけれども、目黒祐樹で良かった、本当に。いや、佐藤允なら観たいかな…。
以上のようなことで、「スペースポリス」が非常に戦っている作品だとゆうことがご理解いただけましたでしょうか。こんなの、存在してもしなくてもどうでもいい映画ですけど、面白い(お)バカ映画の中には当然、一番面白く、バカな部分がある。のべつまくなしに笑い続けるよりも、緩急とゆうことを頭に入れた方が、本人やスタッフや、いろんな人が得をすると思いますよ。実を言うと、前の席で、太っちょ二人組が延々と喋ったり、笑ったりしてたから、こんな事言うんですけどね。ソファーに甘えやがって。べらぼうめ。