待てずに読んだ



 
のろのろと進む読書の記録

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#20030612

 トマス・M・ディッシュビジネスマン」。
 妻を殺した男の卑しい内面をしつこい筆致で延々描いてイヤ〜な感じが満載の冒頭から、妙ちくりんな死後の世界のシステムが説明されるあたりで次第にユーモラスになってゆき、どす黒さととぼけた笑いの強度がどんどん上昇していったかと思うと最後はふいに美しく終わります。 おかしい。かなり可笑しい。

 魂、死後の世界、天国&地獄の実在を前提にしながら、その仕組みの設定に現代風のアレンジが大幅に加わった結果、データ化された人間が暮らすコンピュータ内の空間のような雰囲気があって面白い……と思ったんですが、それはその手の小説ばっかり読んでたせいなのかもしれません。
 彼らが現実の世界に出て行くとこれがまた、現実の人間や物体が幽霊のいる場所に重なると、幽霊のほうの位置がリセットされて一瞬にして別な場所に無造作に飛ばされるとか、なんだかひと昔前のチャチなVR空間のようなのでした。もうずっと「うわあ、SFみたい」と思いながら読んでました。どのみち人の目には見えないのに大理石の聖像に(アヴァターのごとく)身をやつして、泣くと石の玉でできた涙がバラバラこぼれるとか、しょうもない小ワザが随所にあって笑わせてくれました。

 悪人と幽霊の交わりによって、物質界と非物質界の両方にまたがる存在としてのいわゆる悪魔が生まれ、これでもかとホラーショウなやんちゃを繰り広げるわけですが、その描き方が全然ホラーではないので、読み手はただニヤニヤさせられるばかり。終盤ちかく、家のなかで繰り広げられる凄惨この上ない殺戮のサウンドだけを聞きながら、幽霊の登場人物たちが為すすべもなく諦め顔で家の外に立ち、ぼんやり駄弁ってるという場面が最高です。素敵にユルいです。ほんとうに非道い作家だと思いました。



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Akiary v.0.51