[ THE MAGNETIC FIELDS ]

 


少年たちは
世界がわがものとばかりに語り
女たちは
ばかげた日記を大事にかかえ

けれど
津波はとつぜん押し寄せて
すべては海へと吸い込まれ

"suddenly there is a tidal wave" by THE MAGNETIC FIELDS


90年代のアメリカにひっそりと現れた
10年遅れのエレポップ/ネオアコ風ワンマンバンド、ザ・マグネティック・フィールズ。
生楽器とチープな電子楽器をとりまぜたアイデア満載の曲にのせて、
常套句に絶妙なヒネリを加えた歌詞を、無常感あふれるヴォーカルが歌います。
このページは、そんなバンドの歌詞をひたすら日本語に置き換えていくという
翻訳ごっこ広場です。

updated: 2004.04.30
バンド名義での新作発表まぢか、というわけでひさびさに更新してみました。
気がついたらラブソングの甘ったるい常套句にまみれた猛烈にこっ恥ずかしい
ページになってしまっていて、ちょっと居たたまれない気分です。でもまあいいや。


 

OLD ORCHARD BEACH

THE WAYWARD BUS (1992)

オールド・オーチャード・ビーチ

あなたになにか ついていたでしょ 背中のこぶだか、尻尾だか あれって、あなたが切っても また生えた? 輝く瞳の少女だったのに いまのあなたは哀しい青年 なぜかは誰にも わからない 街の地下へと踊りにゆけば 墓場の底へ踊りにゆけば ストロボ・ライトとディスコの音が ふたりを故郷へ戻してくれる オールド・オーチャード・ビーチは あなたの心の故郷ね でもね、ベイビー、 帰れはしても 若さが戻るわけじゃないでしょ 風は吹き荒れ、あるいは吹かず 星はかがやき、あるいは光らず 世界は廻るか、そうでなければ みんな宇宙へ放り出される 街の地下へと踊りにゆけば 墓場の底へ踊りにゆけば ストロボ・ライトとディスコの音が ふたりを故郷へ戻してくれる  
* まるでディスコ風じゃない牧歌的な電子音に スーザン・アンウェイのどこか 気もそぞろな歌声が素敵です。 ちなみに、タイトルで検索したら メイン州にあるビーチ・リゾートが出てきました。  

FEAR OF TRAINS

THE CHARM OF THE HIGHWAY STRIP (1993)

あの娘は列車を恐れてた

軍隊列車にパパを奪われ 宣教列車にママを取られて 高く響く汽笛に馬も逃げ出す でも君こそは 駱駝の背を折るひとすじの藁 子供時代は政府の列車に その後の過去はKKKに 白人の意志があの娘をくじく けれどはだしの足は 疾風のように あの娘みたいな女の子には 世界はあまりに冷たくて ブラック・フットの魂と カウボーイ・ハットを身につけた あの娘の愛したすべてのものが ドラゴン・トラックに成り果てる あの娘は列車を恐れてた モンタナのビート畑を いつも廃線づたいにやってくる 鋤を折って、ささやく言葉は 「ハニー、愛することは あやまつことよ」 サンフランシスコの公園で あの娘のママは主の教えを叫び 廃線の線路に響くこだまは 発車を知らせる笛の音 あの娘みたいな女の子には 世界はあまりに冷たくて ブラック・フットの魂と カウボーイ・ハットを身につけた あの娘の愛したすべてのものが ドラゴン・トラックに成り果てる あの娘は列車を恐れてた ワゴン列車に故郷を奪われ 油田列車に土地をとられて 「ポンデローザの華」にも なれたところを 肥った男がそれを許さず あの娘みたいな女の子には 世界はあまりに冷たくて ブラック・フットの魂と カウボーイ・ハットを身につけた あの娘の愛したすべてのものが ドラゴン・トラックに成り果てる あの娘は列車を恐れてた  
* ペカペカの電子音で奏でられる軽快なカントリー。 この曲を、友人は結婚式で入場のBGMに使ったそうです。 負けられないと思いました(何が?) ひとすじの藁というのは、「一本の藁でラクダの背が折れる」 (落語の「今日がちょうど千年目でございます」みたいな) という格言から来ているようです。しかし何の比喩かは不明。 ポンデローザは松の一種で、米国モンタナ州の州木。 だ、そうなので、"belle of ponderosa"というのは多分 「ミスしらかば」みたいな、地元でだけ有名な ミスコンの類だと思うんだけどなあ。違うかなあ。  

LOVE IS LIGHTER THAN AIR

GET LOST (1995)

愛は空気より軽いから

夏 夏 夏が 秋へと変わる 僕とベイビー・ドールは とうとう海へは行かずじまい どこかに どこかに あるはずの 陽に照らされた砂浜は いつも僕らの 届かぬ場所で そこでは夏が 陽射しにあふれ 別なドラムに 合わせて歌う 「夏 夏 夏は  秋へと変わる  ベイビー・ドールと  浜辺へ行こう  なぜって  愛は空気より軽いから  手を離したら  浮かんでゆくよ  愛は空気より軽いから  降る雪のなかを  昇ってゆくよ」 罪 罪 罪 そして 悪事と病、それが時 理性でも 韻を踏んでも 時の野郎の へたな踊りを 止められなくて 汚い小豚の時の野郎が 睡眠薬を ワインに盛って 自分の髪を 三つ編みにして 僕らの両手を そいつで縛り 僕らは奴が クスクス笑って クネクネするのを ただただ眺め ただただ耐えて あの許しがたい 身振り、身振り、身振りを 見たくなければ ロマンスの飛行船ブリンプに 乗り込むほかに すべがない なぜなら 愛は空気より軽いから 手を離したら 浮かんでゆける 愛は空気より軽いから 降る雪のなかを 昇ってゆける 愛は空気より軽いから 手を離したら 浮かんでゆくよ 愛は空気より軽いから 降る雪のなかを 昇ってゆくよ  
* 恋愛をシニカルに眺める前半から 時間へのよくわからない呪詛をはさんで 最後は突如としてロマンチシズムの空へ 舞い上がってゆく構成の妙。 モコモコとこもったベースラインから キラキラしたギターに連なる この曲のイントロが大好きなのです。 そんなわけで、自分の結婚式の二次会では これを入場の曲に使いました。 僕もまた、ゲイのおじさんの祝福のもと 人生のなんかまあそういう局面に突入した 一人となりましたが、縁起がいいのかどうか よくわかりません。  

YOU CAN'T BREAK A BROKEN HEART

WASPS' NESTS (1995) by the 6ths

壊れたハートは壊せない

きみは時々人形のよう 生きてるようでも もろく小さく 眼はプラスティックで なんにも見えず 描かれた口は動かぬままで ぼくを愛してないのは 分かっている でもそのうちに きみは 科学をためす 技術もためす でも壊れたハートは もう壊せない きみは 僕の頭脳を バラバラにできる でも壊れたハートは もう壊せない 君が泣くのは ぼくが見てると知ってる時 君が試すのは 本に書かれたいろんな手段 でも僕はその本を昨日読んだし 昨日を気にするのは馬鹿だけだ それに昨日の しょうもないルールに 僕がしたがうわけがない きみは 科学をためす 技術もためす でも壊れたハートは もう壊せない きみは 僕の頭脳を バラバラにできる でも壊れたハートは もう壊せない  
* 「ひねくれメガネくん」というか 「ダウナーなすげこまくん」みたいな 目つきの悪い曲をメリットさんは よく書きますね。  

WALTZING ME ALL THE WAY HOME

HYACINTHS AND THISTLES (2000) by the 6ths

家までワルツで送ってくれた

戦争で来た兵隊だった 家までワルツで送ってくれた あなたみたいなのは 初めて会った 言葉がみんな詩になった ありがとう わたしが知っていたより たくさんの 生きる理由を教えてくれて ありがとう 新しい世界を教えてくれて そして ワルツで送ってくれて いまはあなたは ただの想い出 家までワルツで送ってくれた ロンドンでも パリでも、ローマでも あなたがやさしくされますように あなたの 見つける恋人は あなたのお母さんに似てるはず お願いだから 一人でいないで わたしの 見つける恋人は あなたのお兄さんに似てるはず でも 家までワルツで送ってくれる そんな人はあなただけ  
* 「大奥様」風のヴォーカルが仰々しく歌う曲ですが、 歌詞はこのとおり大層かわいらしいのでした。 "waltz someone home"といっても別に踊りながら 家まで送るという意味じゃないはずですが、 言葉の響きとしてはこっちの方がいいかなあと思いました。  

A YOU YOU NEVER KNEW

MEMORIES OF LOVE (1997) by future bible heroes

あなたの知らないあなた

どこまでいっても 僕は独りぼっちだなんて あなたが言うから わたしはついつい真に受ける 日が昇るとあなたは 自分の穴蔵にもぐるから あなたに魂がある気がしない あなたの絶対知らないあなた もっと素敵な場所に暮らしてる あなたの絶対知らないあなた もっと素敵な顔したあなた 目を隠していたって あなたが泣いたらわたしにはわかる 人形が幽霊になったみたいな あなたに生きてる気がするはずがない あなたの絶対知らないあなた もっと素敵な場所に暮らしてる あなたの絶対知らないあなた もっと素敵な顔したあなた  
* ひねくれ君を見守る女の子(男の子かもしれませんが) みたいな歌詞はこの人の定番です。  

SAN DIEGO ZOO

WASPS' NESTS (1995) by the 6ths

サンディエゴ・ズー

道の真ん中であなたに会った 一日ずっとそこに居た ワールズ・ハイウェイの安全帯で 夏がふたりの顔に残した 淡い緑のリップスティック すてきな場所に連れてってくれた ブーン・ブーン・ブーンから始まって ハイウェイ405号線 州間5号をまっすぐ抜ければ そこがサンディエゴ動物園 サンディエゴ・ズー OOH OOH サンディエゴ・ズー サンディエゴ・ズー OOH OOH サンディエゴ・ズー なんであなたを 棄てちゃったんだろう 路傍のカフェに棄ててきた あたしは落ち着けない質で それにきっとどうかしてたんだと思う 水曜からずっと寝てないし なんかどんどん痩せてきてるし あなたの馬鹿っぽい笑顔が見たい ブーン・ブーン・ブーンから始まって ハイウェイ405号線 州間5号をまっすぐ抜ければ そこがサンディエゴ動物園 サンディエゴ・ズー OOH OOH サンディエゴ・ズー サンディエゴ・ズー OOH OOH サンディエゴ・ズー なんであなたを 棄てちゃったんだろう  
* バーバラ・マニングという女性が歌っているから 僕の頭ではずっとこういう感じに聞こえていたのに、 「ブーン・ブーン・ブーン」というのは 実在するゲイ・クラブの名前だそうです。  

LONG VERMONT ROAD

THE CHARM OF THE HIGHWAY STRIP (1993)

ロング・ヴァーモント・ロード

きみの瞳はまるで ロング・ヴァーモント・ロード ラジオからは安手の流行歌 それに きみの瞳は言うなれば 雨ばかり降るテネシーの 歯抜けの若い男ども 蛍たちは 夜じゅう眠らない カントリー・ソングは きみを眠らせない そして あれほどの路上での教習のあとも あれほどの路肩での苦闘のあとも 道は愛してくれはしない そんな素振りを見せもしない あれほど長く忌まわしい ハイウェイの日々のあとも 道は愛してくれはしない そんな素振りを見せもしない きみの瞳はまるで メサ・バード国立公園 でかくて 茶色で はるか彼方で それに きみの瞳は言うなれば カンザス州とミズーリ州に 別れ別れの カンザス・シティ そして あれほどの時の流れのあとも あれほどのきみの涙のあとも 道は愛してくれはしない そんな素振りを見せもしない 果てもなくただ暗い道 そしてあのカントリー・ソング 道は愛してくれはしない そんな素振りを見せもしない  
* 旅情をうたうサードアルバムより、 ポクポクと鳴るリズムボックスにのせて メリットさんの間延びした歌声が 「Big and brown and far away...」 聴いてるこちらまで遠い眼に。  

SUDDENLY THERE IS A TIDAL WAVE

THE WAYWARD BUS (1992)

津波はとつぜん押し寄せて

息ができなくなるまで あなたは私を逆さまに抱き それから赤子のように抱きなおす テレヴィジョンが ワインのかわり シガレットが 砂の粒なら ラプスベリー・シュナップスは 千もの日没 少年たちは 世界がわがものとばかりに語り 女たちは ばかげた日記を大事にかかえ けれど 津波はとつぜん押し寄せて すべては海へと吸い込まれ ふたりの小さな部屋の外 鳥がいたような気もするけれど あなたのこと以外 なにも思い出せない 「長靴下のピッピ」みたいに 暮らそうとしてるから ふたりはきっと世界中の ジョークのオチにされてるね 少年たちは 世界がわがものとばかりに語り 女たちは ばかげた日記を大事にかかえ けれど 津波はとつぜん押し寄せて すべては海へと吸い込まれ  
* 恋愛におけるいちばん濃密な時間についての 歌のようなのに、漂うこの無常感。 このサビが大好きなのです。  

KINGS

DISTANT PLASTIC TREES (1991)

王たち

昼のあいだ 雪がぼくらを隠す 夜 夜はどこまでも夜 道をゆく人々はみな肉で 黒人の少女 トラック ぼくらを轢いて去ってゆく 浮かぬ顔の少年 歩道の人々をチョークがなぞる 君のおおきな部屋を うめつくすのは鯨の胎児 君の部屋を聖域に変えた フクロウとカチーナ人形たち ぼくらは王だった 王だったんだ!  
* デビューアルバムから、 マグネティック・フィールズの中でも もっとも抽象的で美しい一曲。 カチーナというのは北米の先住民、ホピ族が あがめる神々だとか。  

TECHNICAL (YOU'RE SO)

THE HOUSE OF TOMMOROW EP (1992)

きみは繊細テクニカル

背中には人造器官プロスセティックの翼 監視機器サーヴェイランス付きのヴァンを乗り回し いつも同時に7つの事をこなし 脳埋め込みインプラント指令コードを書いて きみには何の前科レコードもない きみのすることを法は縛れない きみと手下の頭脳集団シンクタンクは カウンター・カルチャーの聖人デミーゴたち そう、きみは繊細テクニカル きみは世界を細工ハックする きみはとても繊細テクニカル きみは男の子、それとも女の子?  
人工肢リムをいくつもつけ足して 見た目はまるで スイス・アーミー・ナイフ(翼つきの) ヒンドゥーディアティのように踊り ティモシー・リアリーが親友で そう、きみは繊細テクニカル きみは世界を攻略ハックする きみはとても繊細テクニカル きみは男の子、それとも女の子? 筋金入りの自由主義者リバータニアン 左翼の死デス・オブ・ザ・レフト、それがきみ 風貌はまるでハーバート・フォン・カラヤン 動物園の地下ふかく住み……  
* ウィリアム・ギブスンの短編「記憶屋ジョニイ」を 思い出させるので、ルビだらけの黒丸尚訳ごっこで 「テクニカル」も「繊細」としてみたのですが、 海外のサイトの解説によると、この曲は ローリー・アンダーソンへのオマージュだとのこと。 ギブスンは大ハズレでしたが、 ジャンルとしてはそう遠くもないか、と そのままにしてあります。(いいかげん)  

I'M SORRY I LOVE YOU

69 LOVE SONGS (1999)

すまないけれど愛してる

どこにでもあるバラのように きみの庭に居をかまえた一輪のバラ でも本当はそうじゃない 僕の愛なんだ きみの庭に育っているのは でもただのバラだってことにしようよ あの、申し訳ないけど、君を愛してる いま僕はそういう位相を通過しつつあるんだ ぼくにはどうしようもないんだよ すまないけれど愛してる 僕の歌を聴かないでほしい 覚えちゃいけない、歌わないでくれ それはただの芸術作品だということにしよう それは僕の心じゃないことにしよう 夏が過ぎればバラは色あせるし 歌もかすれて、僕も消える なぜなら僕の心も死にかけだから、そして きみにはどうでもよくて……  
* 考えてみたらいかにもゲイの人が作りそうな歌ですが、 これを陽気なカントリー調の曲にのせて 女性のクラウディアが歌うので、 また違った趣があります。  

PILLOW FIGHT

WASPS' NESTS (1995) by the 6ths

ピロー・ファイト

悲しいね 怪しい地下室のない城なんて でももっと悲しいのは もうなにも隠し事のない恋人 あなたは鞄にトランクスを詰め込んで チャイナタウンに帰ると脅すけど 何か頭の足りないこと言った? 馬鹿なことばかり言いすぎた? 今夜でほんとに終わりなの? それとも ピロー・ファイトはまだやれる? ほんとに飛行機なんか借りてきて 想い出を絨毯爆撃したいわけ? 白黒はっきりつけちゃっていいの? それとも ピロー・ファイトはまだやれる? あれやこれやのいさかいが ふたりの寝床を取り巻いて まるで公園のベンチに餌をせびりに 群がってくるあの鳩みたい 毒入りのパン屑でも食わせてやって この翼のついたネズミどもを 皆殺しにしようよ 何か頭の足りないこと言った? 馬鹿なことばかり言いすぎた? 今夜でほんとに終わりなの? それとも ピロー・ファイトはまだやれる? ほんとに飛行機なんか借りてきて 想い出を絨毯爆撃したいわけ? 白黒はっきりつけちゃっていいの? それとも ピロー・ファイトはまだやれる?  
* 聴くたびに、「carpet bomb(絨毯爆撃)」って かわいい言葉だなあと思います。  

IN MY CAR

HOLIDAY (1993)

わたしの車

あなたの意地悪に わたしは傷つき あなたは去って 離ればなれ でもわたしにはすごいマシーンがある 物事がちがう具合に運んで あなたがまだ大事にしてくれる世界へ このマシーンなら連れてってくれる わたしの車 わたしの車で 内なるどこかへ旅立つところ あなたがわたしを棄てない場所へ わたしが泣かずにすむ場所へ 光の速さで―― わたしの車で もうこの世界には戻らない わたしの場所はほかにある あなたのわたしでいられる場所が このサイコロのお守りが わたしに幸運をくれるから もっと素敵なところにいける ふたりがROCKできる場所 わたしの車 わたしの車で 内なるどこかへ旅立つところ あなたがわたしを棄てない場所へ わたしが泣かずにすむ場所へ 光の速さで―― わたしの車で  
* 平行世界へ現実逃避とはまるでフィリップ・ K・ディックのような、これもまたひとつのSFソング。  

THE TROUBLE I'VE BEEN LOOKING FOR

HOLIDAY (1993)

疫病神を探してた

木々にはカラス 海辺に建つスパニッシュ・ホテル さよならと手を振れば 飛行機雲が空を切り裂く 俺には金がありすぎた おまえは暇を持て余してた おまえは俺が探した疫病神なのか おまえは出て行く 叩きつけられるドア おまえが俺の探した疫病神だったのか まだ眼が痛む おまえは行くのか、戻るのか おまえが足を踏み入れるだけで 部屋中に花が咲き乱れる 俺には金がありすぎた おまえは暇を持て余してた おまえは俺が探した疫病神なのか おまえは出て行く 叩きつけられるドア おまえが俺の探した疫病神だったのか おまえはなにもかも盗んでいって 俺の名前を壁に残した 俺はまた住処を替えた 俺は名前をまた変えた  
* キーを押し続けると音程がどんどん下がってゆくという 仕掛けのシンセの音で表現される、途方もない脱力感の すばらしさを文字ではお伝えできないのが残念です。  

FALLING OUT OF LOVE (WITH YOU)

WASPS' NESTS (1995) by the 6ths

恋から落ちる

輝いていたあのころ きみはぼくのもの ぼくはきみのもの ぼくは変声期で きみは反抗期 ふたりで作ったドラムマシーン なのに 一日ごとに いろんな意味で ぼくはきみとの恋から落ちる するほどにキスは空しくなって ぼくはきみとの恋から落ちる 刻一刻と花はしおれて ぼくはきみとの恋から落ちる きみはますます退屈になり ぼくはきみとの恋から落ちる ちゃんとドラムみたいな音が出た ぼくは若かった きみはばかだった いまきみは歳をとり ぼくは知恵をつけ ふたりで作るシンセサイザー けれど 一日ごとに いろんな意味で ぼくはきみとの恋から落ちる するほどにキスは空しくなって ぼくはきみとの恋から落ちる 刻一刻と花はしおれて ぼくはきみとの恋から落ちる きみはますます退屈になり ぼくはきみとの恋から落ちる  
* うまくいかない恋愛生活のたとえに ドラムマシーンを持ってくる素晴らしさ、 と思ったらメリットさんの実体験だったりして。  

TOKYO A GO-GO

THE WAYWARD BUS (1992)

トキオ・ア・ゴーゴー

会社のために働いていた ただそれだけ ポケットには銃 アイデンティティは空白 あなたと恋に落ちたけれど 二人に自由はなかった トキオ・ア・ゴーゴー トキオ・ア・ゴーゴー 夜をさまよう 邪悪な瞳の ダンシング・スパイ トキオ・ア・ゴーゴー トキオ・ア・ゴーゴー 夜を彩る レーザー・ビームと ダンシング・クイーン あなたはたったの17歳 どこにでもいる男の子 快楽優先にデザインされた よくあるただのラブ・マシーン 今やふたりは逃げ出して しだいに心をとりもどす トキオ・ア・ゴーゴー トキオ・ア・ゴーゴー 夜をさまよう 邪悪な瞳の ダンシング・スパイ トキオ・ア・ゴーゴー トキオ・ア・ゴーゴー 夜を彩る レーザー・ビームと ダンシング・クイーン  
* ブレードランナー・ミーツ・007! 「なんちゃってジャパニーズ」なサウンドがまた 笑える曲。  

YOU LOVE TO FAIL

DISTANT PLASTIC TREES (1991)

あなたは失敗を愛してる

たぶん明日には あなたの眼にもやどる愛 私の眼からは消える涙 たぶん明日にはふたりとも この薄汚れた翼で 飛び方をまなぶはず 外へ行こうと誘っても あなたはいつも首をふる 負けるとわかってるゲームにしか 手を出そうとはしないから あなたは失敗を愛してる ただそれだけを愛してる だれもあなたが消えたわけを知らない あいつは逃げ回ってるんだとだれかは言う 荒野にひそんで暮らしてるって ねえ、なんで急にその気になっちゃったの わたしがあなたの心の友になる 好きなときに出入りしていいから よろこんで私のワーグナーを ダンガリーに包んで護ってあげるから 外へ行こうと誘っても あなたはいつも首をふる 負けるとわかってるゲームにしか 手を出そうとはしないから あなたは失敗を愛してる ただそれだけを愛してる  
* ファーストアルバムから、 これもまた「メガネ君見守り系」の一曲。 広大な荒野に引きこもることができる、アメリカという 土地の素晴らしさにふと思いを馳せました。  

GRAND CANYON

69 LOVE SONGS Vol.2(1999)

グランド・キャニオン

僕がもしグランド・キャニオンだったなら 君がはなす全ての言葉に エコーをかけてあげられたけど でも僕は僕だから 僕はただの僕だから なのに君はそんな風に 僕を愛するのに慣れてる それはもう実に慣れてる 僕がもしポール・バニヤンだったなら 君をどこまでもかついでゆけたけど でも僕は僕だから 僕はただの僕だから なのに君はそんな風に 僕を愛するのに慣れてる それはもう実に慣れてる  
* ポール・バニヤンはアメリカの民話に でてくる木こりの巨人だそうです。  

WORLD LOVE

69 LOVE SONGS Vol.2 (1999)

ワールド・ラヴ

リズムが立てば 政府も倒せる そら警察がやってきた トーキョーからソウェトまで ヴィヴァ・ラ・ムジカ・ポップ 肌の色もさまざまな僕ら 夜じゅう踊り 酒におぼれる ベルリンの壁には大文字のスローガン ヴィヴァ・ラ・ムジカ・ポップ もしきみが落ち込んでいて あの世との境に引っかかってるなら 僕には、そう僕にすら 対処法はわかってる 愛、音楽、ワイン、 そして革命 愛、愛、なによりも愛、そして 音楽、ワイン、革命 これもおごりだ さあグラスを挙げて ツキを変えて勝負に出よう 自由こそがたった一つの法律 踊ろうじゃないか もしきみが落ち込んでいて 成仏できずにさまよってるなら 僕には、そう僕にすら 対処法はわかってる 愛、音楽、ワイン、 そして革命 愛、愛、なによりも愛、そして 音楽、ワイン、革命  
* へっぽこなワールドミュージック風の 曲にのせて、自由を謳う凡百のメッセージ ソングをおちょくっています。と思います。 ちょっとXTCの「English settlement」を 思い出させるところも。  

WHEN THE OPEN ROAD IS CLOSING IN

THE CHARM OF THE HIGHWAY STRIP (1993)

一般道が近づくあたり

あなたの時をきざむのは 傍らをすぎる黄色い点線 私はあなたに一生このかた 本心をうち明けずにいた つらい時間に終わりはなくて 楽しい時が来ることはない 世界はアイオワ・ハイウェイのスラムに建つ あのモーテルのようなもの 一般道が近づくあたり 道と自分の境もわからず 路傍の酒場のひとつひとつが あなたから5年の歳月を奪いさる 一般道が近づいて 黄色い点線が渦巻くあたり あなたの愛するすべての上に そのとき空が落ちてくる あなたは二度と戻らない チャオ あなたは街のはざまの路上に溺れ続け 私は家のすべての鎧戸をおろしたところ 木々が茶色になる頃にあなたは帰り 空っぽの家と 落ちたブランコを目にするだろう 一般道が近づくあたり 道と自分の境もわからず 路傍の酒場のひとつひとつが あなたから5年の歳月を奪いさる 一般道が近づいて 黄色い点線が渦巻くあたり あなたの愛するすべての上に そのとき空が落ちてくる あなたは二度と戻らない  
* 底なしの無常感を、のどかな電子音がやわらげてくれて いるようでもあり、より深くしているようでもあり。  

LOVE IS LIKE A BOTTLE OF GIN

69 LOVE SONGS Vol.3 (1999)

愛は一瓶のジンに似て

それは きみの眼をくらませる きみを大いにへこませる きみがタフだと思わせる 悪いことでも平気にさせる 口から出まかせを喋らせる とても小さくてガラスで出来て とてつもない誇大広告をされている 切れ者をただキレさせて 愚か者を賢い気にさせる 生まれたことを後悔させたり 一張羅で側転をやらせてみたり その値打ちよりも高くつき そのくせ替わりになるものはない みな高い棚のうえにあげられて 歳をへて純度が高まるほどに その色は失われてゆくくせに そいつが虹を見せてくれる バワリーでそれを見つけられるし エレインのとこにもそれはある 君の言葉に華をそえ 陽を輝かせ、雨も呼び 君は中身をひたすらあおるが 充分にあったためしがない 愛は 一瓶のジンに似て けれどもジンの一瓶は 愛とは 似ても似つかず  
* メリットさんの書く歌の例にもれず、この歌も 綺麗に韻を踏んでいます。と思います。 「Bowery」と「Elain's」のくだりの意味は あいかわらずわかりません。  

DORIS DAYTHEEARTHSTOODSTILL

ETERNAL YOUTH (2002) by future bible heroes

ドリス・「地球が静止する日デイジアースストゥッドスティル

ぼくらがここにいることは まだ気づかれていないらしい コマーシャルの地獄と 深夜ムーヴィーの天国に 知覚をかき乱されたのは ほんの偶然からのこと ともあれ、詳細は11時から だけど ドリス・地球が静止する日デイジアースストゥッドスティルは いちばんいかした女の子 地球という名の惑星が 送信してくるあの夢に ぼくらをいつでも 住まわせてくれる ぼくらの触手は みな絡まって 眼もみえず、音もなく ドリス・地球が静止する日デイジアースストゥッドスティル きみが世界を廻してる きみは新しいアンテナを生やし 信号にのせた広告で 石鹸だのヘンナだの ぼくらの買えない品々を 売りつける ぼくらがガス・ドロイドを 送ってやらなきゃ 小惑星中が全滅なのに だけど ドリス・地球が静止する日デイジアースストゥッドスティルは いちばんいかした女の子 地球という名の惑星が 送信してくるあの夢に ぼくらをいつでも 住まわせてくれる ぼくらの触手は みな絡まりあって 雪に閉ざされ、音のないこの星 ドリス・地球が静止する日デイジアースストゥッドスティル きみが世界を廻してる  
* その昔、ドリス・デイというシンガーがいたそうで、 「地球が静止する日」というB級SF映画がありまして、 でもその二つが一緒になる理由というのはメリットさんの 単なる思いつき以外には特にないような気がします。 バカバカしくて大好きです。  

THE DESPERATE THING YOU MADE ME DO

GET LOST (1995)

君がとらせたありとあらゆる

時が首吊りの縄をない けれどもそれを 輪に結ぶのは愛 そうした後でこの僕が 君の蹴りすてる椅子になる 君の好んだあれこれも 君の知っている誰彼も もはや君にはどうでもよくて 君の生きるべき理由も 死に絶えた この歌を君に捧げる 君がとらせた ありとあらゆる 破れかぶれの手段にかえて 痣になるまで君を打ちたい 君が僕に あたえ続けた ありとあらゆる痛みにかえて フロントシートには愛の染み バックシートには山積みの聖書 どれもみな古いモーテルの 抽斗からの盗難品 大人になればわかるだなんて 君は嘘だと知っていた ひねくれて曲がりくねった 心を持った君だから この歌を君に捧げる 君がとらせた ありとあらゆる 破れかぶれの手段にかえて 痣になるまで君を打ちたい 君が僕に あたえ続けた ありとあらゆる痛みにかえて ルート66を車で下る 愛情とグリーン・スタンプを くすねて君は逃げ去った 君の眼に映るのは W・C・フィールズとメイ・ウェスト 時計なんてみな 頭を壊す凶器だと 言われるけれど 君はその頭をおさめておける 万力ヴァイスをすでに持っていた この歌を君に捧げる 君がとらせた ありとあらゆる 破れかぶれの手段にかえて 痣になるまで君を打ちたい 君が僕に あたえ続けた ありとあらゆる痛みにかえて  
* 「万力(vice)」は、「悪習」や「悪徳」という意味に 引っかけてあって、要はクスリのことなんじゃないでしょうか。 いつもの失恋ソングかと思っていたら、 正確には「勝手に破滅しちゃうタイプのあの人を やっぱり止められなかったソング(←長い)」でした。  

LOVE IS LIKE JAZZ

69 LOVE SONGS Vol.2 (1999)

恋とはジャズのようなもの

恋とはジャズのようなもの 弾きながら 曲をでっち上げ 知ってるような ふりをする でも本当は 知りもしないし 知る気もないので そのまちがいを 誇ってみせる まちがえ続けて わが物にする 恋とはジャズのようなもの 手を変えて品を変え 何万回と繰り返される同じ曲 「ストレンジ・フルーツ」に ウィンドベルが あったりなかったり これがいかしてる これがばかげてる これが気が滅入る ほとんどまるで完全に 表面だけのまやかし なのに これが効く  
* 曲もメリットさんによる 「ぼくの考えたジャズ」風味になってます。  

FROM SOME DYING STAR

ETERNAL YOUTH (2002)

滅びゆくどこかの星から

君の唇は 赤の上にも赤 キスの一つで 僕は死ぬ ママの言った通りだったよ なぜって 君は 人間じゃない 君の瞳は 青の上にも青 君はありえないほど 素晴らしい 恋に落ちてしまった 僕だけど 君は 人間じゃない 控えめにいっても 人間じゃない 滅びゆくどこかの星から やってきた 君が何なのかわからない 君の髪は 金の上にも金 君の歳はほんの17 君は僕の血を凍らせる なぜなら 君は 人間じゃない どうひいき目にみても 人間じゃない 君は 人間じゃない 美しすぎて 人間じゃない 滅びゆくどこかの星から やってきた 誰も君の正体を知らない どうやったのか魔法のように 僕らの星に降ろされた 銀の階段を踏みしめて どこかにある滅びゆく星から 君は来た 滅びゆくどこかの星から やってきた 僕には 君がわからない 滅びゆくどこかの星から やってきた 君にも 自分がわからない  
* イーディ・セジウィックが 「地球に落ちてきた男」の デヴィッド・ボウイの役を振られたら こうなるか、というSF映画風味。  

ALL THE UMBRELLAS IN LONDON

GET LOST (1995)

ロンドンの傘をみな集めても

夜を生き延びられるなら 僕は大丈夫 いい歌のひとつもできるだろう 生きてく理由を自分自身に 与えようとしてきたけれど ひとつのことを考えるのが まるで苦手なたちなので 車で廻る 輪を描いて歩く 方向感覚がないからなのだが どうやらどんな感覚もない ロンドンの傘をみな集めても この雨はとめられない ニューヨーク中の麻薬があっても この痛みには効き目がない 東京の金をすべて積んでも 僕を引き留められはしない ロンドンの傘をみな集めても この雨はとめられない もう僕は泣かない 戸口から足を踏み出す いつもならそのまま歩いて バーに落ち着き カクテルがあり だがお喋りをする気がまるでない ひたすらに車を飛ばし 降る闇に身をゆだねる 僕はただ完璧さだけを感じ取り あとはなにひとつ意味をなさない ロンドンの傘をみな集めても この雨はとめられない ニューヨーク中の麻薬があっても この痛みには効き目がない 東京の金をすべて積んでも 僕を引き留められはしない ロンドンの傘をみな集めても この雨はとめられない  
* 暖房のきいた部屋で水滴のついた窓を眺めているような サウンドといつもどおりに呑気なメリットの歌声が、 歌詞と相まって実にこのバンドらしい味を出しています。  

FAMOUS

GET LOST (1995)

フェイマス

きみはあがいた きみは叫んだ きみの心は すこし壊れた でも きみは有名になれるはず そこら中にきみの像が建つ きみは有名になれるんだ もしこの街を去れるなら いまこの街を去れるなら きみは有名になれるはず 新しいルックスとサウンドを きみは世界に売り出せる きみは有名になれるんだ もしこの街を去れるなら いまこの街を去れるなら 魂を売った ロックンロールに 心を渡した でも抜け道ならあるさ きみは有名になれるはず そこら中にきみの像が建つ きみは有名になれるんだ もしこの街を去れるなら いまこの街を去れるなら きみは有名になれるはず 新しいルックスとサウンドを きみは世界に売り出せる きみは有名になれるんだ もしこの街を去れるなら いまこの街を去れるなら きみは女王 すべての場所で 君は王 すべての王 きみは有名になれるはず そこら中にきみの像が建つ きみは有名になれるんだ もしこの街を去れるなら いまこの街を去れるなら きみは有名になれるはず 新しいルックスとサウンドで きみは世界に売り出せる きみは有名になれるんだ もしこの街を去れるなら いまこの街を去れるなら  
* でも去れない、という感じでしょうか。  

REAL SUMMER

MEMORIES OF LOVE (1997) by future bible heroes

ほんとうの夏

ポーチの揺り椅子に寝そべって ミント・ジュレップの大きなグラス ビーチ・ボーイズが流れるけれど なんであいつらにはわからないの これをわたしは夏とは呼ばない 夏とは永遠未満のなにか 一生にただ一度だけ ほんとうの夏がやってくる ワインと驚きに満ちていて あなたはわたしのものだった ばかげていて厳かな ほんとうの夏は一度きり ふたりがこわれてしまう前 あなたはわたしのものだった 砂のお城が並ぶビーチに 新品のボーイフレンドを引き連れて 愛車のウッディでくりだすけれど 愛には手がとどかない あのぼろぼろした城に誰が住むのやら 破ってこそ 夏の約束  あなたなしで 途方にくれて  どうしたらいい  どうしたら… 草のなかを駆け抜けるとき 太陽からは六角形が降りそそぐ 予報官には言わせとけばいい 今日の予報は曇り空 それに、まったく、ビーチボーイズなんて 「ウィンター・ワンダーランド」でも 歌ってればいい 夏なんて くそくらえ 一生にただ一度だけ ほんとうの夏がやってくる ワインと驚きに満ちていて あなたはわたしのものだった ばかげていて厳かな ほんとうの夏は一度きり ふたりがこわれてしまう前 あなたはわたしのものだった  
* 楽勝かと思った歌詞のパズルは、やってみると 非ネイティブをあざ笑うような難しさ。 結局、歌詞が置いてあるサイトで カンニングしてしまいました。 いまはこのあたりなんかにありますね。 おお、スペインのサイトだ。  

DEATH OF FERDINAND DE SOSSURE

69 LOVE SONGS Vol.3 (1999)

フェルディナン・ド・ソシュールの死

今夜みたいな夜だった 僕がフェルディナン・ド・ソシュールに 会ったのは 愛について奴が語るには 「それが何かということさえ  僕には定かでない  理解なくして解決はない  因果応報というやつだ  蘭の花を検分するのに  ブルドーザーは使えまい」 それから奴は言ったのさ 「だから  僕らはなんにもわかっちゃいない  君は何にもわかっちゃいない  僕も何にもわかっちゃいないんだ  愛のことなんか  何ひとつ  けれど僕らは何でもない(ウォウ ウォウ)  君だって何でもない  僕だって何でもないんだよ  愛がなければ  何でもない」 僕は偉大な作曲家だし(拍手) 暴力的な人間でもない けれど正気を失ってしまって 泣きながら僕はフェルディナンを撃った 「わかっちゃいないと言うのは  お前の勝手だが  この1発は  ホランド・ドジャー・ホランドのための  1発だ!」 奴の最後の言葉とは 消えゆく最後の言葉とは 「僕らはなんにもわかっちゃいない  君は何にもわかっちゃいない  僕も何にもわかっちゃいないんだ  愛のことなんか  何ひとつ  けれど僕らは何でもない(ウォウ ウォウ)  君だって何でもない  僕だって何でもないんだよ  愛がなければ  何でもない」  
* ソシュールは「シニフィアン」とか「シニフィエ」とか 「丸山圭三郎」などといった言葉と一緒に 語られているらしい言語学者。 「ソシュールの何が好きかって、彼自身が書いた ものによってじゃなく、キリストや仏陀みたいに 他人が伝えた発言によって後世に知られていると いうところだよ(メリット談)」 僕はこの歌の「ウォウ ウォウ」のところが大好きです。  

ACOUSTIC GUITAR

69 LOVE SONGS Vol.3 (1999)

アコースティック・ギター

アコースティック・ギター、 きみをスターにするよ 世界中にきみの写真がのるよ アコースティック・ギター、 車も買えるよ 僕のあの娘を連れ戻してよ きみの爪弾きの音色が あの娘はとても好きだった 僕もそんなに馬鹿じゃないかもと あの娘に思わせてくれたよね ドラムの音では倒れてしまう なぜならあの娘は フォークだから だから 奏でておくれ あの娘がくるかも知れないよ アコースティック・ギター、 真珠母の裏張りのある きみはほんとに綺麗なギター いいギターになるんだ そうすれば遠くへ行ける 僕のあの娘を連れ戻せるよ あの娘はいつも言ってたね あのかわいいお尻を揺らさせるのは きみの音色だけなんだって あの娘がどこからやってくるのか 君にはちゃんとわかってる 僕にわかってないのは確かだよ じゃなきゃあの娘は いかなかったはず アコースティック・ギター、 僕が手段を選んでないっていうなら きみはスティーヴ・アールとか チャロとかGWARの持ち物に なるかもね 明日売っちゃってもいいんだよ だからあの娘を連れ戻してよ 連れ戻してくれたほうがいいよ  
* クラウディアの切ないヴォーカルが 胸をうつ名曲ですが、歌詞ではなんだか 無体なことを言ってます。 調べてみたら、スティーヴ・アールは カントリー、チャロはフラメンコ、 GWAR(グウォー)はお笑いメタルの人でした。 ギターを破壊することで有名な人たち なのでしょうか。  

(CRAZY FOR YOU BUT) NOT THAT CRAZY

69 LOVE SONGS Vol.2 (1999)

(きみに狂ってるけど)そこまでじゃない

僕はこの手で宇宙船を作った ふたりで月へ行くために 僕はこの手にペンをとり きみに百もの曲を捧げた いま僕は きみに狂ってるけど もうそこまでじゃない 狂ってるけど そこまでじゃない 僕のためだけに命をなげうつ キリストのようにきみをあがめた ウクレレをかかえて 窓の下にも立った 子どもができたときのために 庭に遊園地も作った いま僕は きみに狂ってるけど もうそこまでじゃない 狂ってるけど そこまでじゃない きみをラジウムみたいにあつかった きみを神様みたいにあつかった きみは僕のガラスの動物園 それが変だとは思わなかったかな 閉じこもって飲まず食わずで 無垢な体を損なった きみをガネーシャに見立てて 献身的に愛をささげた でも いま僕は きみに狂ってるけど もうそこまでじゃない 狂ってるけど そこまでじゃない  
* 醒めっぷりが実にこの人らしい、 そしてまたなんというか…実体験?  

LONG-FORGOTTEN FAIRYTALE

69 LOVE SONGS Vol.2 (1999)

忘れ去られたフェアリーテール

君がここにやって来て なつかしいあのささやき声で 僕のペット達に話しかけ 同じタバコを吸ってるなんて もしも誰かが言った日にゃ 僕は笑いとばしてたね 最後に会ったのは夏だった お別れをいうのは嫌いだとか なにも説明することはないだとか 人生には雨降りの日が付き物だとか あれやこれやを聞かされて そしていま 君の瞳にふたたび輝く 忘れ去られたフェアリーテール 僕は夢の世界に引き込まれ 極彩色につつまれて もはやすべてが意味不明 羽布団でできた空飛ぶ街が 謎めいた霧のなかに浮かんでる いにしえの魔法の城があり クリスマスツリーみたいな盛装で そこに住んでる王子とは僕 君はちょっとしたジョークを 楽しんでるんだろう でも僕は笑いのセンスを無くしてる クスリの効果も消え失せた これに太刀打ちできるほど 強い薬じゃなかったのかも そして以前と変わらぬ君のキス おかわりを求めてやまない僕 それから君はささやかな嘘で 僕に催眠術をかけ続け ふたたびのキス… そしていま 君の瞳にふたたび輝く 忘れ去られたフェアリーテール 僕は夢の世界に引き込まれ 極彩色につつまれて もはやすべてが意味不明 羽布団でできた空飛ぶ街が 謎めいた霧のなかに浮かんでる いにしえの魔法の城があり クリスマスツリーみたいな盛装で そこに住んでる王子とは僕 灯りという灯りをつけて 眠れぬ日々を過ごした僕を 負け犬だとか馬鹿だとか そんな風に言うやつがいたら 僕はぶん殴ってたね ところがいま 僕はもう一方の頬を差し出し 声は震えて足はガクガク 君はもう一度僕をぶち 次の展開はといえばもちろん 賭け金をつりあげる君 そしていま 君の瞳にふたたび輝く 忘れ去られたフェアリーテール 僕は夢の世界に引き込まれ 極彩色につつまれて もはやすべてが意味不明 羽布団でできた空飛ぶ街が 謎めいた霧のなかに浮かんでる いにしえの魔法の城があり クリスマスツリーみたいにめかしこみ そこに住んでる王子こそ僕  
* タイミングの狂った電子音がありえない幸福感を 強引に盛り上げ、朦朧としたヴォーカルがその上を ただよう素敵な一曲。 「これもゲイソングなのかなあ」と疑いだしたら きりがないこの人の歌ですが、その一方で 別にどんな組み合わせの関係にでも 当てはめられそうな普遍性もあるのが いいのではないか、と思ってみました。  

WHY I CRY

GET LOST (1995)

わたしが泣いたわけ

夏の日の一日じゅう ふたりのいつもの遊び場で 手と手をつないで歩き 砂のうえに建てた城 そしてあなたは「おやすみ」と けれどもそれは「さよなら」で ふたりの愛の 息は絶え だから わたしは 泣いた わきかえる人混みのなか わきあがる雲を指さした 夏は秋へと姿をかえて 壁に色あせる写真になった だからあなたは「おやすみ」と けれどもそれは「さよなら」で ふたりの愛は もはやなく だから わたしは 泣いた  
* 日本語にしたらなんだか悲しく なりすぎてしまいました。 曲調はとても暖かくて、そこがいいのです。  

SAVE A SECRET FOR THE MOON

GET LOST (1995)

秘密は月にとっておこう

ひとつひとつの君の涙の 呼び名をぼくは知ってるよ 孤独に過ごした年の数や 人の名も日付もみんな聞いてる どのみち それを鵜呑みにはしないけれど だれかを好きになったとき いつも太陽に話しちゃいけない じきに日暮れがやってくる 秘密は月にとっておこう 真っ暗になった部屋のなか 黒い風船にそれを書き 消え去るのをただ見ていよう 秘密は月にとっておこう もっと悲しい詩があるよ きみが想像もしなかったような 悲しい人たちを沢山知ってるよ もうほとんどが 死んでしまったけれど だれかを好きになったとき いつも太陽に話しちゃいけない じきに日暮れがやってくる 秘密は月にとっておこう 真っ暗になった部屋のなか 黒い風船にそれを書き 消え去るのをただ見ていよう 秘密は月にとっておこう  
* 恋に悩む少女(だかなんだか)に もうちょっとややこしい事情をお持ちの メリットさんからのアドバイス。なのでしょうか。  

LOSING YOUR AFFECTION

ETERNAL YOUTH (2002) by future bible heroes

あなたの愛を失うよりは

わたしはなにひとつ 深刻に受け止めないのを あなたは知ってるでしょ わたしには柳の木さえ 笑い顔に見えるのを 知ってるでしょ だけどわたしは 血塗れの革命のギロチンで 首を斬られる女王になるわ ルークをあっさり取られた後で 途方にくれるキングになるわ あなたの愛を失うよりは あなたの愛を失うよりは 柳の木なら秋風に 吹かれれば葉を落とすけど 何世紀でも緑のままに 葉を茂らせている木だってある だけどわたしは 血塗れの革命のギロチンで 首を斬られる女王になるわ ルークをあっさり取られた後で 途方にくれるキングになるわ あなたの愛を失うよりは あなたの愛を失うよりは メス熊の巣穴に入っていって 毛を逆向きになで上げる方がまし ガラガラヘビに求愛のしぐさで せまった方がよほどまし あなたの愛を失うよりは あなたの愛を失うよりは タガログ語を喋るカエルになって 生体解剖された方がいい ドッグフードに変えられて 犬のまえに出された方がまだいいの あなたの愛を失うよりは あなたの愛を失うよりは  
* ばかばかしい韻の踏み方は 作家のニール・ゲイマンも絶賛。  

EPITAPH FOR MY HEART

69 LOVE SONGS Vol.2 (1999)

心の墓碑銘

「注意:  感電の危険があるので  カバーは外さないでください  この中には補修のための部品はありません  補修については専門知識のある  係員にお問い合わせください」 これを 僕の心の墓碑銘にしてほしい 天使は矢に毒を塗りすぎだ これが僕の心の墓碑銘 なぜってもうこれは ぶっこわれ ちまった からさ そして人生は 続いて 続いて 続き 死もまた 続いて 終わりなき世界 きみは僕の 友達じゃ ないし 誰が僕の心の死を悼むだろう 鳥の糞のようなそれが ポップチャートを駆け上がるのか 誰がその灰を拾い 歌いながらブリル・ビルディングから 撒くというのか そして人生は 続いて 陽もまた のぼり 死もまた 続いて 終わりなき世界 きみは僕の 友達じゃ ないし  
* 失恋ソングばかり書くこの人ですが、 失恋そのものはともかく、それを歌にするのは 楽しくてしょうがないんだろうなあ、と 聴くたびに思います。 20年前に書かれたオリジナルでは 冒頭の注意書きだけの曲だったのが、 アルバム「69 LOVE SONGS」に収録するときに 他にあまりにも短い曲が多すぎたので、後ろの 部分を付け加えたのだとか。  

JEREMY

THE WAYWARD BUS (1992)

ジェレミー

ふたりは若かった 未来のように 若かった いつも過ちばかりで 若かった この国みたいに 若くあるための 古い手口を学んでた おんぼろ車であなたの周りを でたらめに走り回ってた イザドラ・ダンカンみたいな ありえない長さの 白いスカーフを首に巻き 秋の枯れ葉と 日記帳 テネシーとジェレミー とつぜんに 柳の並木 想い出の中のジェレミー ガラパゴス諸島の亀みたいに 歳をへても進化のないふたり 砂丘に巣穴を掘って 卵を置いたら行ってしまう ふたりの夢を書き出していた まだ見ぬ土地の地図を描いた そして説明すべきでないような 奇妙な事もあるのだと知った 秋の枯れ葉と 日記帳 テネシーとジェレミー とつぜんに 柳の並木 想い出の中のジェレミー どしゃ降りの雨のなか 屋根を開いたままの車で走った まだ若かったあの日 ふたりの買った家はほんとうは湖で かわうそがホールを横切って 床には渦巻き、そして帆が… あなたはひとり すべては終わり あなたはひとり 手には銃 あなたはひとり これからずっと あなたはひとり もう若くない  
* イザドラ・ダンカンは、首に巻いたスカーフが 車のタイヤに絡まって窒息死したダンサーだそうです。

 

[ THE MAGNETIC FIELDS ]

DISTANT PLASTIC TREES (1991)

デビューアルバム。抽象性の高い歌詞と幻想的なサウンド。ヴォーカルをとるのはスーザン・アンウェイ。日本盤のライナーではヴァージニア・アシュトレイを引き合いに出されたり、とても一般受けのよさそうな作品。ちなみに、現在出回っている輸入盤のCDでは、なぜか収録曲が日本盤より1曲少ないのです(マニア情報)。

THE WAYWARD BUS (1992)

同じくスーザン・アンウェイをヴォーカルにすえた第2作目。前作よりもバブルガム度が高まり、ほぼ現在のマグネティック・フィールズの音に。現在CDでは1stと2ndが1枚にカップリングされたものが出回っています。

THE HOUSE OF TOMMOROW EP (1992)

スーザンとたもとを分かち、突然自分で歌い始めたミニアルバム。お馴染みのもっさり無気力ヴォイスはこれから。「five loop songs」というサブタイトルの通り、バックの音はイントロの数小節が変化のないまま最後まで延々ループするというスタイルの5曲。

HOLIDAY (1993)

テーマは行楽、資本主義、そしてエスケーピズム。マグネティック・フィールズとしては一番エレポップ風なアルバムで、わざと壊れたシンセを使ってるんじゃないかと思わせる素敵なヘンテコ電子音にのせて、安っぽい映画みたいな光景が次々と歌詞の上で展開。

THE CHARM OF THE HIGHWAY STRIP (1993)

旅がテーマ。広大なアメリカをさすらう旅情となぜか同居する、ここちよい箱庭感。ひたすら現実逃避にふけっていたかのような前作に対して、このアルバムには孤独と真正面から向き合う姿勢があるような気がします。乾いた無常感が心にしみる名作。

GET LOST (1995)

アルバムごとにひとつのテーマがあると語るメリット、このアルバムのテーマは「ヴァンパイア」だとかそうでないとか。「月」がタイトルに入った曲が多数。現在のバンド編成になったのはこのアルバム以降のようです。

69 LOVE SONGS (1999)

CD3枚組のボックスセット、全69曲入り、すべて新曲というとつぜんの暴挙。多数のゲストヴォーカルを迎え、豪華なブックレットには本人への長い長いインタビュー(すべての曲へのコメントつき)を収録というお腹一杯っぷり。音楽各誌からも好評で、おそらくはバンド最大のヒット。

I (2004)

ライナーにさりげなく記された一言、それは「no synths」。シンセなし! ガーン!! しかし中にはなんともブリリアントな生音オンリーのエレポップが収録されているではありませんか。野菜だけでニセの魚をつくる類の中国の精進料理を連想しました。素敵です。

[ THE 6THS ]

WASPS' NESTS (1995)

豪華なゲストヴォーカルを招いてでっち上げられた、架空の(メリット自身への)トリビュートプロジェクト第一弾。ヴォーカルが多彩で、明るくて風通しのいい曲が多いので、この人の作品を最初に聴くならこれが一番お勧めかもしれません。参加するのはヨ・ラ・テンゴのジョージア・ハブリー、セバドーのルー・バーロウ、クリス・ノックス、ヘヴンリーのアメリア・フレッチャーなど。ちなみにこのグループ名は英語圏の人間でも発音に困るらしいです。(シックススィズ??)

HYACINTHS AND THISTLES (2000)

ヴォーカルはチボ・マットの羽鳥美保、モーマス、セイント・エティエンヌのサラ・クラックネル、マーク・アーモンド、ゲイリー・ニューマン(←多分オチとして)など。1枚目にくらべるとはるかにエレポップ寄りな印象。ちなみにヴォーカルの選定はメリットではなくマネージャーのクラウディアの趣味にまかせているとのこと。
そのほか、ロイド・コールをヴォーカルに迎えたヒューマン・リーグ「Human」のカヴァーが存在する模様。「Reproductions: Songs of the Human League」に収録。

[ FUTURE BIBLE HEROES ]

MEMORIES OF LOVE (1997)

エレポップ畑のクリストファー・ユエンとのユニット。したがって非常にピコピコです。ヴォーカルは、メリットと、バンドメンバーでありマネージメントもつとめるクラウディア・ガンスンが半分ずつわけあう形。CDのブックレットはタイトルからクレジットまですべて言葉パズルになっていて、全部解かないと歌詞がわからないという仕組み。それも含めてとても楽しいアルバムです。

ETERNAL YOUTH (2002)

ヴォーカル曲のすべてをクラウディアが歌っている2枚目。音はもう冗談のようにエレポップで、これがいつものメリットのメロディを奏でる上に流れるクラウディアのどことなく田舎っぽい歌声がじつに奇妙な取り合わせ。「ドリス・『地球が静止した日』(doris daytheearthstoodstill)」というアホな曲名があったり、全体的にB級SFムーヴィーの香りが漂っています。

[ GOTHIC ARCHIES ]

THE NEW DESPAIR (1991)

陰鬱で救いのない曲ばかりやるというプロジェクト。そうでなくても沈んだ曲ばかり作る人だというのに。オカルト風味も濃厚だとか。まだ聴いていません。

[ STEPHIN MERITT ]

EBAN & CHARLEY (2001)

個人名義での初めての作品は同名映画のサウンドトラック。ジャケットを開いたらすごくよく判りましたが、あっ、やっぱりこの映画はゲイの人が主人公なんですね。もちろん大半の曲がインストゥルメンタルで、とはいえいつものチープなメリットの音。個人的には「ヴィクトリア朝時代のロボット技術」という曲名が好きです。



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