非常に猛サマー






今年の夏も、
どうやらずいぶんと暑いようですね。
「暑いらしい」という噂を僕もちかごろよく耳にします。

いわく、「溶けた道路のアスファルトに膝まで沈んだ」
いわく、「日なたに出たネコが『じゅう』といって消えた」
いわく、「プロパンガスのボンベが正午きっかりに爆発した」
いわく、「蜃気楼の向こうからナチスの飛行船が迎えに来た」
ひと夏の猛暑体験をみな口々に語っています。


でも実はそうでもないと思いますよ!
鵜呑みにしたらだめですよ!!


それが必ずしも事実とは限らないということに私たちは
つねに留意しておかなければいけません。
書物から、テレビから、街頭の電光掲示板から、
それは我々の意識下に静かに入り込んでくる
物語なのです。


「暑かった。 (完)」

「暑いということだ。 (完)」

「暑かったとさ。 (どっとはらい)」

「末ながく暑かったのでした。 (完)」

「暑かった。それが彼女を見た最後だった。 (完)」

「ついしん あるじゃーのんに っていうか あつい
(完)」


すべての結末が「暑い」で締めくくられる夏物語。
そう、物語は無数のバリエーションを消費しながら
結局のところは「暑い」というただ一つの命題に向かって
収束していくから暑いんであって、暑いと思わなければ
暑くないかというとそれはまったくのナンセンスなのだと
偉い人はぼくたちに言うけれど、


でもそれはほんとうに暑いのでしょうか?

そもそも、それはほんとに夏ですか?

それはじつは夏じゃなくて、
夏じゃなくてえーと、
水道の蛇口をひねるとお湯がドバーって熱ゥ!


(汗だくで我に返る練馬区在住の男性)



あ、あ、あ、



いやしかしそれは大げさでした。
そこまで暑いはずはない。
こんなに暑いはずがない。
ぼくはたぶんまだ夢をみている。
暑いという夢を見ている。
この住居のなかで唯一クーラーのない和室を寝室に
設定してしまうというとりかえしのつかない過ちを
悔やむ心がぼくにこのような夢を見させているに
違いないのです…って
あ、あ、あ、
暑ゥ!!



若干5歳のおねしょ小僧とはまた違った意味で
朝起きるたび布団のなかでスイミング気分を満喫な
倉田さんとしては、えー倉田さんとしては、
最近は居間(クーラーあり)にふとんを敷いて寝る
ことによって事なきを得たのだといいます。

暑かった。
(完)




いや、なにが暑いって、
外からの帰りに通りかかった八百屋で見たスイカの
美味そうなことと言ったら、もう。

あんなにすごい勢いで吸引されたのは
生まれて初めてかもしれません。
これまでの人生、夏の果物といえば
もう何がなんでもだったのに、
店先でまさに切り分けられつつあるスイカの
みずみずしい断面に顔を突っ込みたいという
強烈な衝動を必死でおさえたために体が
おかしな姿勢になった昼下がりのデパート地下。


「砂漠が水を欲しがるように」という
歌の文句を思い出しました。
言うなれば東京砂漠でした。

練馬区は東京23区内でもっとも
ヒートアイランド現象がすごいのだという
ヨシザー提督が教えてくれた知識をうっかり
反芻してしまって蒸し暑さが倍増しました。


このままではいけない。
夏に殺られるその前に、僕らが夏を殺らねばならぬ。

キラーな夏をマーダーすべく、そうめんを
ゆでることにした倉田さんでしたのでしたが。


コンロの上でぐらぐらと煮え立つ鍋。

…非常に暑い。


ムキになって枝豆も隣のコンロでゆでてみる。
ぐらぐらと沸く鍋二つ。

…さらに暑い。



「間違えた!なんかすごく間違えた!!」


倉田さんが犯した致命的な誤りとは、
誰もが知っている次のような真理を
見逃していたことにありました。

「冷たい料理にも、往々にして加熱は不可欠」


しかし気づいたときにはもはや手遅れ、
絞りかたの足りない雑巾みたいなビシャビシャ
状態となった怪人汗男はそれでも最後の力を
振り絞って冷凍室のトビラを開けるとそこには
例の、
あれが、

「やあ!そろそろぼくの出番かな?」
「うわー涼しい〜〜」
「すっかり飲み頃だよ!」
「うわー涼しい〜〜」
「早く飲んでよ!」
「うわー涼しい〜〜」
「あんまり入れとくと凍っちゃうよ?」
「うわー涼しい〜〜」
「開けっ放しにしてると肉が腐るよ?」
「うわー涼しい〜〜」
「なあおい」
「うわー涼しい〜〜」
「……」
「うわー涼し…」


後頭部をどつかれながら冷凍庫からとりだした缶を
パキッとかトクトクとかシュワーとかゴクゴクとか
言わせたらばもぉ






う
ぁ  
〜〜〜







そんなありきたりな方法で
彼は人間性の恢復に成功したのだと
いいます。


暑かった。
(第二部完)





さて、
こんな日記をダラダラと書いているうちに
折しも台風が接近しつつある本日の練馬、
じつは非常に
涼しいです。


「勝ったのか?ついに俺たちは夏に勝ったのか?」

「ナマコとおなじ姿勢で言ってる時点で負けです」

「……オクラのカレー…」



夏野菜を!夏野菜をもっと!



(つづく)


 

日々ゾンビ



みなさんこんにちは。

あいかわらずくさったにくを食べる機会に事欠かない
練馬の方の倉田さんの家の方でありましてつまり


「ゾンビだあー!」


「もおー(草食なんスから)」


「ゾンビ牛だあー!!」


「もおー(肉なんか食わせないでくださいよ)」






すっかり風化してしまった「ぐあいのよくないうし」
ネタをもてあましつつも一応のせてみましたが、
みなさんはどんなクリスマスを過ごされましたか?
モチはいくつ食べましたか?
入学式には何を着て行きますか?
いまはいったい何年ですか?
ぼくは21世紀から来ました!!




じゃ、とりあえずビールで。




さて、皆様おくつろぎのところ大変申しわけ
ないんですが、そんなわけで久々の更新早々
くさったにくを食べる話でございます。


安かったんです。
パッと見はわりとイケそうだったんです。


ラップごしに見える牛ひき肉の表側はなんとも清らかな
生肉色(そんな色の色鉛筆、どこかにないですか)。
輝かんばかりの健康美に騙されて、
ついカゴにいれてしまったクラタさんでした。
甘かった。

2重構造のひき肉だったのです。

まったくアコギな商売してますよ。
バラエティ番組に出てくるワサビ寿司なみの
芸術的な隠蔽技術でもって、
ほんの薄皮一枚ぶんの健康な肉の下に
もはや肉とは呼べない何かが隠されていたのです。

家に帰ってラップをほどき、裏を返せば、うわっ。
死、死、死の世界!!

「もしもし?どのみち死んでますよ?」

いやもちろん表も裏も死んでるんですけども、
死んでる牛の肉ですけども、
でもね、そんなんじゃなくてなんかもう、
「ゴルゴ13」なんですよ。

顔すじスナイパーまんがこと「ゴルゴ13」の
登場人物って、死ぬと必ず上にトーンを貼られて
イヤーな顔色になって、「いま死んでるとこ!!」
ってのを露骨にアピールするじゃないですか。

そうなんです。
ああいう感じの色になってるんです。ひき肉が。

それで、なんというんでしょうか、非常に攻撃的な
アトモスフィアを身にまとっていますね。
鼻を鼻の形に凹ますような、
胃袋をわしづかみにして下からギュッと絞り上げる
ような、純粋な悪意そのもののごとき何かを
むんむんと放射しまくっています。


「これってつまり、くさっ‥‥」
「くさいけど大丈夫!食えるから!」
「いやそうじゃなくて、腐っ‥‥」
「ほら、牛ってもともとくさいじゃん?(←失礼)」

そんなゆかいな禅問答でディスコミュニケーションの
溝が深まるほほえましい一幕をはさみながら、
われわれはとりあえずこのゾンビ肉を
冷凍保存することにしました。
医学の進歩した未来に蘇生への希望を託したのです。
いやいや、託してどうしますか。

「ティモシー・リアリーはまだ凍ってるのかなあ」
「あの脳を生で食べたら飛べるかなあ」

しかし、そんなふうに凍らせて忘れたつもりに
なったところで、おなかが空くのをごまかすことは
出来ません。


数日後、彼は冷凍庫の扉を開けることになるのです。

 
♪ぞぉ〜んび〜  
ぞんびぞんび〜 (うた:電気グルーヴ) 「ゾンビさん久しぶりですね」 「ん」 「あいかわらずキッツいですね」 「ん」 「しょうがないから食いますけどね」 「ん」 そんでまあ、つみれにして食ったりしますよね。 「ほほう、牛肉のつみれとはめずらしいですな」 「焼いてから、デミグラスソースで煮込むのね?」 誰が喋ってんだか知りませんが、 さらなる問題はこのデミグラスソース。 賞味期限を1年過ぎた缶詰です。 缶の表面に錆がいっぱい浮いてます。 この古い缶詰が放射する太古の呪いでゾンビ肉の 毒に対抗すべく、というよりは要するに、 どうせダメもとで、えいっ!! 投入してみたのでした。 結果: 食べたら普通にうまかった。 「よかったな、坊主」 えー、つまり、結論としてはやはり 「肉って意外に大丈夫!!」 ということになるようなので。 みなさんもぜひ果敢に、色のふしぎな特売肉や 産地不詳の神秘な肉などに挑戦してみてください。 僕はいいです、もう。充分堪能したので。 それよりも、そうだ、チーズケーキに挑戦しよう。 チーズは市販のものを使うという方針で! 「冷蔵庫に牛乳を放置してチーズ化」とかは 極力避ける方向で!!


(つづく)


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